慎重かつ正確に行うべき懲戒処分通知のプロセス。
しかし、適切な書き方と通知方法が守られていなければ、企業側のリスクになりかねません。この記事では、「懲戒処分通知書の書き方」と「通知方法の注意点」を徹底解説し、問題を未然に防ぐための違反行為の予防策まで探ります。
1. 懲戒処分通知書とは
懲戒処分通知書は、従業員が職務上の不正や問題行為を起こした際、会社がその従業員を懲戒処分に付すことを通知する文書です。
この通知書を通じて、従業員に対する処分の内容、理由、根拠を明示することになります。
通知書の書式や文言は、後々のトラブルを防ぐためにも、適切な書き方、内容であることを求められます。そのため、作成する上での法的な知識や就業規則への理解が不可欠となります。
1.1. 懲戒処分通知書を作成するメリット・役割
懲戒処分通知書は、組織内の企業秩序を維持することを目的とする重要な文書です。つまり、従業員が行った違反行為に対する制裁を明確にし、他の従業員への警告としての教育的な効果が期待されます。
また、万が一の法的な紛争が起きた際には、この通知書が企業側の処分が適正であったことを示す証拠となるのです。
さらに、従業員に対しては自身の行為が企業にもたらした影響を自覚させ、改善または再発防止へ向けた行動を促すための役割も担っています。
そのため、通知書には、どのような行為が問題であったか、会社のどの規律に違反したかなどを具体的な法律や就業規則を引用しながら記載することが求められます。
1.2. 作成するデメリット
デメリットとして考えられるのは、懲戒処分通知書の作成には時間と労力が必要となる点です。
法令や就業規則に基づいた適切な記述を求められますので、人事部門や法務部門にかかる負担は少なくありません。
また、通知書の表現が不適切だと従業員との間で不必要なトラブルが生じるリスクもあります。従業員が内容に納得できない場合、労働審判や訴訟に発展する可能性もあるでしょう。
2. 懲戒処分通知書の書き方
懲戒処分通知書を書くときには、何よりも内容が明確でなければなりません。
書類として残るものなので、曖昧な表現を避け、具体的に問題となった行動や、それに基づく懲戒処分の内容を記載することが大切です。
また、社員がその通知を受けたときに自分の行った行動と処分の関係を理解できるように配慮することも重要です。
2.1. 社員情報の正確な入力
懲戒処分通知書を作成する際には、まず社員情報の正確な入力が不可欠です。社員の氏名、所属部署、役職などの基本情報を間違いなく記載することが求められます。
2.2. 通知書の見出し・表題
懲戒処分通知書の見出しや表題は、文書の性質を明確にし、受け取る社員にすぐに内容を理解させる役割があります。
見出しには、たとえば「懲戒処分通知書」や「懲戒処分決定通知」など、一目で処分内容が伝わるような言葉を選ぶ必要があります。
2.3. 企業名を記載する
懲戒処分通知書には、必ず企業名を明記することが求められます。企業名は文書の正式性を示す要素であり、文書がどの組織から発行されたものなのかをはっきりさせます。
2.4. 処分の内容・種類
処分内容には様々な種類があり、戒告・譴責、減給、降格、出勤停止、解雇などが一般的です。
処分通知書には、この処分の種類を明確に記載する必要があります。懲戒処分の選択については、社員の問題行為に対して重すぎないように配慮しながら決定する必要があります。
2.5. 処分の対象となる行為と根拠となる法令と就業規則
懲戒処分をする際には、処分の理由と根拠規定となる法令や就業規則を示すことが重要です。
通知書には社員が犯したとされる違反行為と、その行為がなぜ懲戒対象となるのかの説明が必要です。
懲戒の理由を明記すると共に、どの法令の条項、または就業規則のどの規定が適用されるのかを具体的に記載することで、処分への理解を深めさせるとともに、法的根拠を持たせることができます。
2.6懲戒処分通知書の書式・記載例
3. 懲戒処分通知書の作成と通知時の注意点
企業が従業員に対する懲戒処分をする際には、懲戒処分通知書の適切な作成が求められます。
懲戒処分通知書は、懲戒処分の内容や理由を明確にするメリットがある一方で、内容に間違いや誤った交付をすると、かえって紛争を引き起こします。
そのためにも、懲戒処分通知書の作成前の準備段階で十分な検討を行うことが大切です。
3.1. 言葉遣いの注意点
懲戒処分通知書を作成する際に、特に注意が必要とされるのが言葉遣いと文体です。
企業側の立場としての厳正な態度を示すためのバランスが求められます。使用する言葉選びには十分に留意し、どのような職位の従業員に対しても尊厳を無用に傷つけるような表現は避けるべきです。
3.2. 客観的な証拠資料に基づく客観的な事実を確認する
懲戒処分通知書を作成する際には、客観的な証拠に基づいた、事実関係の記述が不可欠です。
具体的な事実関係や証拠を挙げることで、従業員が納得するだけでなく、必要に応じて、法的な手続においてもその処分の正当性を証明する材料となりえます。
したがって、主観的な推測や個人的な意見を控え、客観的な証拠に基づき認められる事実を記載するように努める必要があります。この過程で、事実と異なる内容が含まれないよう、細心の注意を払いましょう。
3.3.就業規則に根拠となる規定があるか確認する
懲戒処分は、その根拠となる就業規則に懲戒事由や懲戒処分の種類が定められていることが必要です。
たとえ、従業員が問題行為に及んだとしても、懲戒事由として定められていない行為を理由に懲戒処分したり、定められていない懲戒処分をすることは認められていません。
そこで、懲戒処分にあたっては、就業規則で懲戒事由と懲戒処分の種類が規定されているかをしっかりと確認する必要があります。
3.4 従業員に弁明の機会を与える
懲戒処分を下す前に、従業員には十分な弁明の機会を与えるようにします。
弁明の機会を与えることは、従業員本人が納得する処分を下し、また、万一の不服申し立てに備えてその手続きの正当性を確保するために必要です。特に、重たい懲戒処分をする場合には、事前の告知と聴聞の機会を与えることが重要です。
3.5.通知内容の公表には名誉とプライバシーに配慮する
懲戒処分を公表する際は、対象となる労働者の名誉やプライバシーへの配慮が不可欠です。
社内で懲戒処分の内容を公表することで、その他の社員は、どのような行為をすれば、どのような懲戒処分を受けるかを、事前に認識することができ、不祥事の予防になります。
しかし、不用意な個人情報の公開が、名誉毀損やプライバシー侵害などの法的責任を問われる原因になることもあります。
したがって、通知内容を他の社員に伝える場合は、違反行為の予防に必要な限りで最低限の情報に留め、個人を識別できる情報は避ける等、慎重な対応を心がけるべきでしょう。
4. 懲戒処分通知書の通知方法
懲戒処分通知書の通知方法には、直接手渡しだけでなく、郵送する方法があります。
4.1.面談の上で直接手渡しする
懲戒処分通知書は、なるべく他の従業員のいない場所で懲戒処分通知書を直接交付する方法が望ましいです。
手渡しで交付する際には、従業員と面談した上で、通知書の内容を読み上げ、通知書を交付します。通知書を渡す際には、従業員から受領書をもらうことで、通知書を交付したことの証拠を確保しておくことが大切です。
また、面談時の状況を事後的に証明するために、面談時の会話を録音しておくことも有用です。
4.2.郵送で通知する方法
郵送で懲戒処分通知書を送付する方法です。
送付にあたっては、外観上懲戒処分通知書であることが分かるような封筒や記載は控えることで従業員の心情にも配慮します。
また、従業員が通知書を受け取ったことを証明するために、単なる普通郵便ではなく配達証明付の内容証明郵便を用いるようにします。
5. 違反行為の予防策
違反行為を未然に防ぐためには、企業内での予防策をしっかりと構築することがとても大切です。
5.1. 従業員との定期的な面談やコミュニケーション
従業員との定期的な面談は、コミュニケーションの強化に非常に効果的です。
面談を通じて、それぞれの業務に対する理解を深めると同時に、職場での問題点や不満を把握することができます。
管理職であれば直面している問題や課題を共有し、解決に向けて話し合う機会を持つことで、信頼関係の構築を図ります。
また、社員が職場に求めるものやキャリアプランについて理解することで、モチベーション管理にも寄与します。
5.2. 業務日報を作成して問題点を克服する
業務日報の作成は、社員が日々の業務を振り返り、成果と課題を明確にするために役立ちます。日報の作成が、社員が自身の非効率な部分や問題点に気付く機会になります。それだけでなく、日報を、上司や会社との双方向のコミュニケーションのツールとすることで、従業員と会社の信頼関係を構築し、モチベーションの改善に繋げていきます。
5.3. 従業員の配置転換を検討する
一人の従業員が同じ職務に長く留まることは、その従業員が業務内容に飽きたり、『慣れ』から起きる不正や事故を引き起こします。
定期的な配置転換やローテーションは、従業員に新鮮な刺激を提供し、スキルの向上やモチベーションの維持を助けるだけでなく、不正行為や事故の予防になります。
6.問題社員の対応は弁護士に相談を
従業員が問題行為を行った場合、漫然と放置することなく適切に対応する必要があります。懲戒処分は、問題行為の再発を予防し企業秩序を維持するために必要なものです。しかし、誤った方法で懲戒処分をしてしまうと、かえって労使間の紛争を誘発させてしまい、企業秩序を崩す要因となります。
適切に懲戒処分を行うためにも、懲戒処分通知書を作成して、これを従業員に確実に交付することが大切です。懲戒処分通知書の作成でお困りな企業は、弁護士に相談しましょう。
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