懲戒処分の公表はしてよいのか?違法とならないための注意点

公開日: 2024.03.16

あらゆる組織にとって、規律は秩序維持の要ですが、懲戒処分の取り扱いはデリケートな問題でもあります。懲戒処分を公表することは、懲戒処分を予防して、企業秩序を維持するために必要である一方で、無制限に公表をすると違法行為となり得る危険性もはらんでいます。では、懲戒処分を適切に公表するためにはどのような配慮が必要でしょうか。

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懲戒処分の公表とは

懲戒処分とは、企業が、就業規則に違反する問題行為を行なった社員に対して課す制裁をいいます。

懲戒処分の公表は、企業が懲戒処分の内容を明らかにすることをいいます。社内向けに公表することもあれば、社外向けに公表することもあります。

懲戒処分の公表に際しては、ルールに則った方法で慎重に実行しなければなりません。公表が過剰であったり、不必要な個人情報を流布してしまうと、プライバシー侵害や名誉毀損などの法的問題を引き起こす原因となり得ます。

懲戒処分の公表の目的

企業における懲戒処分の公表には、主に以下のような多様な目的があります。 

まず、就業規則や法令を遵守する企業文化を作り、他の従業員に対する抑止効果を狙うことができます。

また、問題行為を行なった社員に対する企業の態度を示すことで、他の社員の企業に対する信頼感を生み、貢献意欲を高めることも期待できます。

更に、適正な処分を実施したことを示すことで、組織の公正性をアピールすることも目的の一つです。

ただし、これらの目的を達成するためには、個人の名誉やプライバシーに配慮した適切な方法で公表することが重要となります。

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懲戒処分の公表が違法となる場合のリスク

懲戒処分の公表は無制限ではありません。たとえ社員がルールに違反する問題行為を行なったとしても、みだりに懲戒処分の内容を公開すると社員の権利を侵害したり、個人情報保護法に違反するリスクがあります。

プライバシー権や名誉権を侵害するリスク

社員にもプライバシー権や名誉権といった権利があります。

つまり、懲戒処分を受けた事実は、みだりに公開されたくない情報ですから、プライバシー権として保護されます。また、社員は、懲戒処分の公表により、自身の社会的な評価が既存されない名誉権を有しています。それにもかかわらず、会社が、氏名などを公開する必要性がないにも関わらず、懲戒処分の情報を漫然と公開すると、社員のプライバシー権や名誉権を侵害することになり、社員から損害賠償請求を受けるリスクがあります。

被害者のプライバシーや名誉権

セクハラや性犯罪を理由とする懲戒処分の公表の場合、被処分者だけでなく、被害者のプライバシー等に細心の注意を図るべきです。たとえ、被処分者の氏名を伏せたとしても、被害者の個人情報を特定できてしまうと、被害者の2次被害を招きます。

そのため、被害者のいるようなケースでは、公表を控えるか、公表時期を遅らせた上で、公表内容を相当程度抽象化することが求められます。

個人情報保護法に違反するリスク

企業には個人情報を保護する責務があります。しかし、社員の氏名を明示する懲戒処分の公表は、個人情報保護法に違反するリスクがあります。氏名や懲戒処分に関する情報は、個人を識別できる「個人情報」に該当します。個人情報を公開する場合には、利用目的を特定した上で、目的の範囲を超えて利用することができません。

そのため、個人情報保護法のルールに反して懲戒処分の公表をすると、個人情報保護法に違反することになり、企業に対する信頼度を毀損するリスクがあります。

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懲戒処分が違法とならないための注意点

懲戒処分の公表により、被処分者のプライバシーや名誉などの人格権を侵害すると違法となる可能性がありますし、会社として不法行為責任を負ってしまうリスクもあります。これを避けるためには、個人情報の保護に最大限配慮し、必要以上の情報は公表しないルール化が重要です。

就業規則で公表をルール化する

就業規則内で懲戒処分の公表に関する具体的なルールを設けることは必要不可欠です。

公表の対象範囲をどう設定するか、つまり全ての懲戒処分を公表するか、それとも、解雇や出勤停止など、重大な処分に限定するか、明確に決める必要があります。

また、公表する方法や期間についても、あらかじめ明記しておくことも重要です。

公表のルールをあらかじめ定めておくことで、懲戒処分の公表により対象社員の権利利益が不当に侵害されないよう配慮することが大切です。

参照)人事院の「懲戒処分の公表指針について」(平成15年11月10日総参−786)

懲戒処分が有効であること

懲戒処分の公表は、その処分がまず有効でなければなりません。処分自体が不当であると、公表したことについても違法性が問われる可能性が高まります。

つまり、懲戒処分が適正な手続きと正当な理由に基づいて行われていることが、公表の前提条件となるわけです。透明性の高いプロセスを経て、公正な懲戒処分がなされたことを確認した上で公表することが適切でしょう。

個人を識別できる情報は公表しないこと

個人情報やプライバシー権の観点からも、懲戒処分の公表には細心の注意が要されます。被処分者の個人を識別できる情報は基本的に公表すべきではありません。氏名は勿論、対象社員が特定できるような具体的な情報も抽象化することが大切です。これにより、個人情報の不適切な利用や権利侵害を防止しながら、必要な情報のみを公開することができます。

ただし、重大な事案であり、事実関係に争いがないような場合には、例外的に氏名の公表も許容されることもあるでしょう。

公表期間は長すぎないように

懲戒処分の公表においては、公表する期間も考慮すべき点です。いつまで処分内容を公開し続けるのか、そのタイミングをどう決めるのかが重要なポイントになります。不必要に長い期間、懲戒処分を公表し続けることは、被処分者にとって不利益を与えかねません。適切な期間を設定し、その後は公表内容を削除するなどの対応を取る必要があります。

公表する方法

公表する方法が著しく不相当な方法にならないように配慮するべきです。

公表方法としては、社内の掲示板に掲示する方法、社内法に掲載する方法、社内のプライベートのネットワーク(イントラネット)への掲示する方法が挙げられます。公表内容が外部に漏れることによる悪影響がないように細心の注意を払うべきでしょう。

懲戒処分の公表の裁判例

企業が懲戒処分を社内で公表した後、被処分者の社員から損害賠償請求を受けることがあります。以下では、懲戒処分の公表の違法性について判断した裁判例を紹介します。

個人の特定ができない方法による公表

被処分者の氏名を記載せず、個人の特定ができない態様によって公表した場合には、被処分者の社会的な評価が毀損されないため、損害賠償の問題は生じにくいとされています。

個人の特定ができる方法による公表

実名を明記するなど個人の特定ができる方法による公表をした場合、それが社内公表であるか社外公表までしているかによって判断の枠組みが異なります。

社内公表に留まる場合

氏名等の公表をする正当な理由がある場合には、名誉毀損による損害賠償は認められないと判断する傾向にあります。

関西フエルトファブリック事件(大阪地裁平成10年3月23日)

懲戒解雇をしたことを社報に記載した事案です。

企業が社員を就業規則により懲戒解雇した旨を公にしたにすぎないのであって、社員が横領犯人であることが示されたとは即断できないこと、正当な処分を公示したにすぎないことから、名誉毀損は成立しないと判断しました。

マナック事件(広島高裁平成13年5月23日)

降格処分を公表した事案です。

虚偽の内容を公表したとはいえないこと、社員の名誉を毀損すること意図とはいえないこと、社員が監督職でなくなったことを従業員に知らせるだけのものであることから、名誉毀損する行為とはいえないと判断しました。

東京地裁平成19年4月27日

懲戒休職処分を公表した事案です。

懲戒処分の掲示について就業規則で規定されていること、掲示方法は社内に設置された掲示板に社員に交付された通知書と同一の文書を張り出す形で行われたこと、掲示期間は発令の当日のみであったことから、懲戒処分の公示方法として何ら不相当なものとは認められないことから、名誉毀損とは認められないと判断しました。

社外公表までしている場合

社内公表ではなく、社外公表する場合には、名誉毀損の違法性を失わせるだけの理由があることが求められます。

つまり、公表した内容が、公共の利害に関する事実に関わり、専ら公益を図る目的でなされた場合で、事実が真実であるか、又は真実と信じるに相当の理由があるときに不法行為にはならないと判断されます。

岐阜地裁平成23年6月2日

公立の研究機関が研究者の懲戒解雇を社外に公開した事案です。

本件は、公立の研究機関に所属する研究者の不正行為であって、①学術研究の健全な発展ないし秩序に関わる公共の利害に関する事実であること、②本件公表の目的は教育研究機関としての社会に対する責任に基づくものであり、専ら公益を図る目的によるものであること、③公然と摘示した事実は真実であるといえることから、違法性はなく不法行為とはいえないと判断しました。

京都地裁平成25年1月29日

私立大学の特任教授に対するセクハラ行為を理由とする懲戒解雇をマスコミに公開した事案です。

大学において最低限の情報を提供して社会に対する説明責任を果たす必要性は高いといえること及び本件摘示事実の内容に照らすと、本件摘示事実は,公共の利害に関し、専ら公益を図る目的に出たものと認められる。そして本件摘示事実を真実であると信じるにつき相当な理由があったということができることから、違法性はないと判断しました。

公表文書の書式・ひな形

懲戒処分を公表する際の公表文書のひな形を紹介します。

氏名など個人を特定できる文書を掲示してしまうと、懲戒処分を公開する目的を実現できないばかりか、かえって被処分者から損害賠償請求を受ける事態になりかねません。

懲戒処分を公表する目的を実現するため、被処分者の権利を侵害しないように適切な文書を作成するようにすることが重要です。

告知
令和〇年〇月〇日
従業員各位
人事部長 〇〇 〇〇 ㊞
当社は、以下の非違行為に対して、就業規則第○条に基づき、令和○年○月○日付けで懲戒処分を行いました。従業員の皆様におかれましては、今後このようなことがないよう、法令、就業規則、服務規律等を遵守するように徹底してください。
記
1処分事由:部下に対するパワーハラスメント行為 
2懲戒事由:就業規則第〇条第〇項第〇号
3懲戒処分:10日間の出勤停止処分
以上

懲戒処分の問題は弁護士に相談を

問題社員を漫然と放置すると、就労環境を悪化させ企業秩序を悪くさせます。そのため、問題社員に対しては、適切に懲戒処分を行うことが重要です。しかし、問題社員の対処を厳格にするあまり、社員の個人的な利益に配慮を欠いた懲戒処分の公表を行ってしまい、かえって、企業内の秩序を悪化させる要因になります。

問題社員に対する懲戒処分は、あらかじめ弁護士に相談した上で計画的に実施することが重要です。

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