「付加金」というワードを聞いたことがある経営者や労務担当者は多くいると思います。ただ、その具体的な内容や付加金の支払を命じられる条件を詳しく理解できている人は多くありません。
付加金の問題の多くは、未払い残業代の問題とセットで生じます。未払い残業代の問題においては、支払うべき残業代と同じ金額の支払を命じられることがあります。この金額の支払が「付加金」です。
未払い残業代の金額が大きくなれば、付加金の金額も大きくなってしまうため、企業側の経済的な負担を増大することになります。この経済的な負担が企業の経営が甚大なダメージを及ぼすことも珍しくありません。
今回の記事では、付加金の基本と付加金の支払を回避するためにできることを解説します。
付加金とは
残業代等を支払わなかった場合に、使用者は、未払いとなっている残業代等に加えて、これと同じ金額の支払いをしなければなりません。
未払額と同一額の支払いを、付加金といいます。
付加金は、以下の金員を支払わない場合に、支払うよう命じられることがあります。
• 解雇予告手当(労基法20条)
• 休業手当(労基法26条)
• 時間外・休日・深夜労働の割増賃金(労基法37条)
• 年次有給休暇中の賃金(労基法39条9項)
付加金は労働基準法の定める割増部分だけでなく、その基礎となっている通常の給与部分も対象となります。
例えば、未払いとなっている割増賃金が125万円であれば、使用者は労働者に対して、割増賃金125万円の支払いを命じられるだけでなく、付加金として125万円の支払いを命じられます。
付加金が生じる条件
付加金の支払を命じられるためには、労働基準法違反があることに加えて、判決により付加金の支払を命じられることが必要となります。各条件を詳しく見ていきましょう。
労働基準法違反があること
裁判所が付加金の支払いを命じるためには、残業代の不払いなどの労働基準法違反があることが必要です。
ただ、労働基準法違反があれば、常に付加金の支払いを命じるわけではありません。
付加金の支払いを命じるかどうかは、裁判所の裁量に委ねられています。
裁判所は、労働基準法違反の態様、労働者の不利益の性質、内容等の諸事情を踏まえて、重大・悪質と言える場合に限って付加金の支払を命じます。
TIPS! 労働基準法違反があれば、特段の事情がない限りは、付加金の支払いを命じる事案も多くあり、付加金の要件については諸説あります。 |
判決により命じられること
付加金の支払いは、訴訟手続を通じて、裁判官の判決により命じられるものです。
そのため、判決以外の裁判上の和解、労働審判、調停、裁判外の合意において、使用者に対して付加金の支払いを求めることはできません。
付加金の支払いを受けるためには、労働者が残業代の訴訟を提起した上で、審理を経た上で、裁判官が使用者に対して判決により付加金の支払いを命じる必要があります。
労働審判と付加金
実務上、労働審判においても付加金の支払いを命じることはありません。
労働審判とは、労働審判官(裁判官)1人と労働審判員2人で組織された労働審判委員会が、個別の労働問題について、話し合いによる解決を目指す手続きです。原則として3回以内の期日で審理し話し合いによる解決を試みますが、解決に至らない場合には審判が出されます。
労働審判や和解は、裁判上の和和解と同様のものと考えられています。
先ほども述べたように付加金は判決手続きにより命じられます。
そのため、裁判上の和解と同様のものである労働審判では、付加金の支払いを命じることはできません。
付加金を支払わないためには
付加金を支払わないために、企業側ができることがあります。企業が抱えることになる経済的な負担を回避するためにも、積極的に対応するようにしましょう。
残業代を支払う
裁判所の判決が出されるまでに残業代等を支払えば、裁判所ら付加金の支払いを命じることができません。
厳密には、事実審の口頭弁論終結時までに割増賃金の未払い金の支払を完了したときは、付加金の支払を命じることができないとされています。
事実審とは、第一審と控訴審(第二審)を指します。そのため、控訴審の審理が終わるまでに割増賃金を支払えば、付加金の支払いを免れます。例えば、一審判決で残業代と付加金の支払いを命じられたところ、使用者が控訴した上で、控訴審の審理終結前に一審で認められた残業代を支払えば、付加金の支払いをする必要がなくなります。
労働者が受け取らない場合
労働者側としては、付加金の支払いを受けたいがために、使用者側の割増賃金の支払いを受け取らないことが想定されます。
労働者が受領を拒絶することで、使用者は未払いの割増賃金を払いたくても払えません。
労働者側が受け取らない場合には、使用者は供託をすることで、支払った時と同じ効力が生じます。
供託とは、支払い義務を負う人が債権者のために金銭等の目的物を供託所(法務局)に預けて、その債務を免れるとする制度です。
そこで、労働者側が受領拒絶する場合には、未払いの割増賃金の全額を供託することで、付加金の支払いは生じなくなります。
付加金の期限
付加金にも期限があります。
従来、付加金の期限は2年でしたが、労基法改正により、賃金の消滅時効が5年に伸長されたため、これに合わせて付加金も5年の期間制限となりました。
ただ、いきなり2年から5年に期間伸長をすると、使用者側の負担も過大になるため、当面の間は3年となりました。
そのため、しばらくの間、付加金の期限は3年となります。
付加金の期限は除斥期間と呼ばれています。
除斥期間が経過するまでに、労働者は残業代と一緒に付加金の支払いを求める訴訟提起をする必要があります。
付加金の期限は除斥期間
付加金の期限は、除斥期間と呼ばれるものです。
あまり聞き慣れない言葉かと思います。これに似た言葉に消滅時効があります。残業代等の賃金請求の期限は、消滅時効となります。
除斥期間と除斥期間は、似た制度ではありますが、異なる制度です。
異なる点は、大きく2つあります。
- 援用の有無
- 更新の有無
援用の有無
消滅時効の場合、時効期間が過ぎれば当然に時効により債務が消滅するわけではありません。
時効が完成したため時効によって消滅させる旨の意思表示をして初めて、消滅時効により債務が消滅します。この意思表示を時効の援用と言います。
他方で、除斥期間であれば、期間の経過があれば当然に消滅し、時効の援用を必要としません。
権利者側としては、除斥期間が過ぎる前に訴訟提起するなどして権利行使する必要があります。
更新の有無
消滅時効であれば、時効完成前に、支払いの猶予を求めたり、一部支払いをすると、時効期間がリセットされて、ゼロから進行します。これを時効の更新と呼びます。改正前は、時効の中断と呼ばれていました。
他方で、除斥期間については、このような期間をリセットする制度はありません。除斥期間内に訴訟提起などをしなければなりません。
労働審判と除斥期間
労働審判手続きを進める中で付加金の期限が経過してしまうと、労働審判後に訴訟手続きに移行した場合、付加金の支払いを求めることができなくなります。
そこで、このような事態を避けるため、労働者が労働審判において付加金の請求をしておくことがあります。
つまり、労働審判では、付加金の支払いを命じることはできません。
しかし、労働審判も裁判手続きの一種ですので、労働審判の申立てに際して付加金の支払いを求めたことで、権利行使の意思表示をしたといえるからです。
そこで、労働者が、除斥期間の経過前に、労働審判の申立てに際して付加金の請求をすることで除斥期間の問題が解消されると考えられています。
付加金の遅延損害金
付加金にも遅延損害金が付きます。
ただ、その起算点は、判決確定日の翌日となります。利率は、民法で定められた法定利率である年3%ととなります。
TIPS! 残業代等の割増賃金の遅延損害金は、退職日までは年3%、退職後は、未払い賃金に対して、退職した日の翌日から年14.6パーセントの割合の遅延損害金を支払わなければなりません。 |
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