労災隠しとは?労災隠しの罰則やデメリットを解説

更新日: 2024.07.14

「労災隠しとは、どのようなことを指すのだろうか」

「労災隠しとは?具体的に何をすると労災隠しとなってしまうのだろうか」

と気になりませんか。

労災隠しは犯罪行為であり、労働基準監督署も非常に厳しく取り締まる行為です。

労災隠しに該当する行為を行った場合、その企業の信用は失墜するばかりではなく、刑罰が課せられることもあります。

今回は、労災隠しとは何かについてだけではなく、その実態と影響、そして対策について詳しく解説します。

労災隠しについて気になっている方はぜひ、最後まで読んでいってください。

労災隠しとは

労災隠しとは、事業者が労働災害の発生を故意に報告しない、または虚偽の内容を報告する行為を指します。具体的には、労働者が死亡または休業した場合に提出すべき「労働者死傷病報告」を提出しない、または虚偽の内容を記載して提出することです。労災隠しは労働安全衛生法に違反し、50万円以下の罰金刑が科せられます(労働安全衛生法第120条、第122条)。

業務中従業員がケガをした場合、使用者は労働基準監督署に労災事故を報告する義務を負います(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第97条)。

例えば、製造職の従業員が機械に巻き込まれて、骨折をしてしまい、会社を休むことになったという場合が該当します。また、会社の敷地内で事務職が段差に躓いて、骨折をして会社を休むことになった場合です。

他方で、通勤途上の事故である通勤災害の場合、事業主はこれを労働基準監督署に報告する義務を負いません。

労災隠しの方法

具体的には、以下のような行為が典型的な労災隠しの方法であると言えるでしょう。

労働災害の報告をしない

労働基準監督署に対して、労災発生を報告しないことです。これは労働安全衛生法に違反し、法的な罰則が課せられる行為です。

経営者は、労災が発生したら、遅滞なく労基署に対して労働者死傷病報告書の提出が必要となります。

それにもかかわらず、労災保険料や損害賠償義務の負担を避けたいなどの理由から、報告書の提出を怠る場合があります。

虚偽の報告をする

業務中に発生した労働災害であるにもかかわらず、事故の発生場所や日時、態様を偽って報告することも法令違反となります。例えば、建築会社において、元請けの現場で起こった労災であるにも関わらず、元請けに迷惑がかからないように、事故現場を偽る処理しようとする行為がよく見受けられます。

労災隠しをする理由・動機

労災隠しを経営者がしてしまう理由や動機には、以下のようなものがあります。

・労災保険料の増額

・労災保険に未加入

・被災者からの損害賠償請求を回避したい

・社会的評価の低下を回避したい

・労働基準監督署による調査を回避したい

それぞれについて解説します。

労災保険料の増額

労災保険料は、いわゆるメリット制という制度により算出されます。 

メリット制は、過去3年間の労災保険からの支払実績に応じて労災保険料が変化する制度です。

労災保険を利用すれば常に保険料が上がるわけではありませんが、従業員が100人以上、又は、20人以上100人未満であっても災害係数が0.4以上であれば、労災保険料がアップしてしまい、経営コストを圧迫します。

そのため、労災を隠そうとする企業が出てしまいます。

労災保険に未加入

企業は、人を雇用すれば原則労災保険に加入しなければなりませんが、保険料の節約のために労災保険に加入していないというケースがあります。この場合、労災を隠そうという動きをする企業があります。

労災未加入だったとしても、きちんと労基署に報告し加入することで労働者は保護されます。ただし、企業は、被災者が労働保険から給付を受けた金額の100%又は40%を徴収されることになります。これとは別途で、最大2年間の未払いの保険料と10%の追徴金も徴収されることになります。

そのため、企業は、労災保険の未加入が発覚するのを恐れて、労災隠しをすることがあります。

被災者からの損害賠償請求を回避したい

業務災害が起きると、原則として事業主は労災事故にかかる責任を負います。

労災保険から、治療費(療養補償給付)、休業補償給付、障害補償給付が支給されますが、労災保険の給付は被災者に生じた全ての損害額を補填するわけではありません。業務災害において、事業主側に安全配慮義務違反等があれば、労災保険ではカバーしきれない被災者の損害を賠償しなければなりません。しかし、このような損害賠償義務を不当にも回避したいという思惑から労災隠しを企図することがあります。

社会的評価の低下を回避したい

労働災害が発生しないことは労使ともに望ましいことといえます。そのため、労災をなくすためにゼロ災害活動を掲げている企業も多いです。

使用者は、労災が発生しないように労働者の就労環境を整備する義務を負います。そのため、労災事故が表沙汰になれば、使用者が労働者に対する義務を怠ったとして、社会的な評価を低下させるおそれがあります。

そこで、企業の社会的評価を守りたいがために労災隠しを図ることがあります。

労働基準監督署による調査を回避したい

労災を起こした場合、労基署の調査を受ける可能性があります。労基署の調査では、関係資料や使用者報告書の提出を求められたり、聴き取り調査を行います。労基署の監督官(安全衛生法面担当の専門職)は、事故の背景や職場環境を調べに来ることで、その際に様々な労働法違反が発覚する可能性があります。それを避けるために労災を隠したいという意図が働くのです。

労災隠しのデメリット

ここでは、労災隠しのデメリットについて、使用者側のデメリットと被災社員側のデメリット双方から解説します。

使用者側のデメリット

使用者側のデメリットは、以下の通りです。

・罰則を受ける

・企業イメージの悪化

・社員の離職を招く

それぞれについて解説します。

罰則を受ける

労災を意図的に隠したと判断されると、50万円以下の罰金刑を受ける可能性があります。罰金なので、前科がつくことになります。仮に罰金刑を受けた場合、行政庁の許認可が取り消しとなって廃業しなければならない可能性もあるのです。

企業イメージの悪化

労災隠しは企業イメージを低下させます。企業のイメージ低下はどのような企業にとっても痛手になるものです。現在の日本企業はコンプライアンスを遵守することが強く求められており、労災隠しのような行為は、会社への信頼性を大きく損なう行為です。

社員の離職を招く

労災隠しをすると、従業員に対して、会社に守ってもらえないとの印象を与えます。そのため、労災隠しをすれば、社員からの信用を失うことになり、離職者が増える可能性があります。

優秀な社員が辞めるなどして、競争力を失うことになるでしょう。

被災社員側のデメリット

被災社員側のデメリットは、以下の通りです。

・治療費を自己負担する

・休業補償を受けられない

・後遺障害の補償を受けられない

それぞれについて解説します。

治療費を自己負担する

被災した社員は治療費を自己負担することになり、経済的なダメージを受けることになります。本来、労災認定を受けていれば治療費は療養補償として給付されます。労災隠しは社員の経済的な負担を課すものであり避けなければなりません。

休業補償を受けられない

労災が受けられない場合、休業補償(給付基礎日額の約6割)を受けられなくなります。

そのため、もしも社員がケガから職場復帰できない状態が長引いた場合、休業損害の補償を受けられません。

後遺障害の補償を受けられない

災害の結果、症状固定となってもその後に障害が残ってしまうケースもあります。そのような場合、労災保険では一定の金額の後遺障害の補償を受けることができます。労災隠しをすると、障害補償を受け取れません。

労災隠しが発覚する理由・経緯

ここでは、労災隠しが発覚する理由やその経緯について解説します。

社員や家族による告発

労災を隠すと社員や家族による告発を受けることになります。

業務上にケガをしたのに、使用者が労災を申請していないとなれば、社員やその家族が労基署や労働組合、弁護士に相談する可能性があります。そこで労災隠しが発覚することになるのです。

病院による通報

私傷病ではなく明らかに労災であるにも関わらず、被災者が健康保険証を用いて受診している状況を不審に思い、医療機関が労働基準監督署に通報することで労災隠しが発覚することもあります。

労災事故が起きた時の会社の対応

ここでは、労災が発生した場合に、会社がとるべき対応について解説します。

労働者死傷病報告を期限内に提出する

労働災害が発生したら、労働者死傷病報告書を管轄の労基署に、提出してください。死亡事案や休業4日以上の場合、発生から1週間を目安に労基署に提出するようにしましょう。

休業4日未満の事案であれば、四半期ごとの翌月末日までとなっています。 

休業補償を超える4割分を負担する 

労災事故により被災者が休業すれば、労災保険から休業補償が給付されます。

休業補償は、休業4日以降の休業について、給付基礎日額の60%相当額となり、休業損害の全額が労災保険から給付されるわけではありません。

しかし、業務災害であれば、使用者は、被災者の休業損害の全額を負担する義務を負います。

そこで、使用者は、業務災害について、休業3日目までの休業補償全額と4日目以降の休業補償4割分を負担するようにしましょう。

配置転換を検討する

被災者の配置転換を検討します。

労災により社員の就労能力が制限されたとしても、それを理由に直ちに社員を解雇することは避けなければなりません。

そこで、会社の規模にもよりますが、社員の能力や適性に応じて配置転換を行い、社員に対して就労の機会を与えるように努めましょう。

労災問題は弁護士に相談を

労災問題は弁護士に相談するようにしましょう。労働問題は対処を誤ると大きなトラブルに発展しかねません。

法律のプロである弁護士に相談できる体制を作ることにより、コンプライアンスを遵守しながらも、企業を守ることができます。

労災問題は労働者側の権利と企業側のコンプライアンス問題が入り混じる複雑なものです。弁護士等の専門家に相談できるような体制を作るなどし、判断基準を持てる体制づくりを行ってください。

まずは、弁護士に速やかに相談しましょう。

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