『うちの会社に限ってはセクハラはない。』と安易に考え、セクハラ対策を十分に実施できず、セクハラを放置してしまっている企業は未だに多いのが現状です。
しかし、セクハラに対して、適切な対応をしなければ、様々な被害を招きます。
本記事では、セクハラを理由とする懲戒処分や懲戒処分までの流れを解説します。
セクハラとは
セクハラとは、セクシュアルハラスメントの略称です。
職場におけるセクハラについて、男女雇用機会均等法では、職場において行われる性的な言動であって、これを受けた労働者がその労働条件につき不利益を受けたり、就労環境が害されるものと定義しています。
セクハラは、同性同士でも該当します。
相手方の意に反するものであれば、冗談のつもりで述べた発言や親しみを込めた発言もセクハラになります。
セクハラを懲戒処分できるのか
セクハラと一言でいっても、犯罪に該当するようなものから、法律上の定義にあたらない言動まで幅広く存在しています。セクハラの行為態様によって、被害者が受ける被害の程度や企業秩序を害する程度は当然異なります。
そのため、社員のセクハラを理由に懲戒処分をする場合には、セクハラの態様を踏まえて処分内容を選定すること必要があります。
セクハラの態様を踏まえずに解雇処分とすると、不当解雇となる可能性があります。
☑労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
強制性交や強制わいせつの場合
社員が、被害者員に対して、暴力や脅迫をして無理矢理性交をしたり、わいせつ行為を行った場合、これら行為は刑法上の強制性交や強制わいせつにあたる明らかな犯罪行為です。
このような犯罪行為が、客観的な証拠から明白であれば、懲戒解雇とするべきです。
胸・でん部を触る行為(身体の接触あり)
服の上から胸や臀部を触る行為は、強制性交や強制わいせつとまでは言えませんが、セクハラには該当します。
これまでに処分歴があり、セクハラを繰り返し行い、その都度改善の機会を与えていたにもかかわらず、再びセクハラに及んだ場合には、懲戒解雇や普通解雇をすることもあり得ると考えます。
しかし、これまでに処分歴がない場合には、懲戒解雇や普通解雇は不当解雇となる可能性が高いです。
上司が部下に対して胸を触るなどのセクハラをしたのであれば降格処分とします。
同僚同士であれば、出勤停止(停職)とします。
その上で、被害社員との接触を避けるために、配置転換を行います。
ただ、セクハラ行為を理由に懲戒処分とすれば、セクハラの事実が多方面に知れ渡る可能性があります。そうなれば、加害者といえども、就労環境が著しく害されます。そのため、懲戒処分とする前に、退職勧奨を行い自主退職を促す場合もあります。
東京地判平21年4月24日
【事案】
会社の支店長が部下の女性らに対して、宴会の席や職場で、指や手を握る、肩を抱く、「胸が大きいね、何カップかな、胸が大きいことはいいことやろ」、「男性が女性を抱きたいと思うように、女性も男性に抱かれたい時があるやろ」その他数多くの性的な言動を行ったことを理由に懲戒解雇した事案。
【判断】
➊手を握ったり肩を抱くという程度の一連の行為は、強制わいせつではないこと、❷秘密裏ではなく多数の従業員の目もあるところで開けっぴろげになされたものであること
等を踏まえ懲戒解雇を無効と判示しています。
東京地判平10年12月7日
【事案】
男性社員が、①女性社員の肩をもんでブラジャーに手をかけるような行為をしたこと、②女性社員がエレベーターから降りようとした際に、外観から影になる場所に引きずり込んで抱きつきながら胸を触ったこと、③女性社員が残業を終えて事務室に出たところで抱きついたことを理由に、懲戒解雇した事案。
【判断】
➊女性社員が不快感を示していたこと❷その態様も執拗かつ悪質であり、女性社員に相当程度の苦痛と恐怖を与えたものであること❸男性社員の行為が派遣先の企業内で行われたものであるため、派遣先の職場内の風紀秩序を著しく乱すだけでなく、男性社員を雇用する企業の名誉・信用を著しく傷つけたことを理由に、懲戒解雇を有効としました。
大阪地判平12年4月28日
【事案】
観光バスの運転手である男性社員が、①女性社員Aの膝、太股、胸を触り、スカートの中に手を入れるなどしたこと、②女性社員Aをしつこく誘って自家用車で生駒山の展望台に連れ出した上で、抱きつき、拒絶されたにもかかわらず、更にその後も車中でも抱きつこうとしたことなどを理由に懲戒解雇した事案
【判断】
➊わいせつ行為は真に悪質な行為であること、❷勤務終了後の行為についても、古参の運転手という立場で入社間もない女性社員にしつこく迫って誘い出すなどしていること、❸会社では男女関係には厳しい対応をしてきており、男性社員は以前にも女性関係の問題で被告から注意を受けていたこと等を理由に懲戒解雇を有効と判断しています。
身体的な接触がない場合
性的な発言や要求したことで、被害社員の就労環境が害されたり、拒否したことに対して不利益な扱いをした場合には、セクハラに当たります。
例えば、以下のケースはセクハラに該当する可能性があります。
身体への接触を伴わないセクハラについては、加害者の職位、被害者の受けた被害の程度、行為の回数や頻度を踏まえて、譴責(けんせき)、減給、出勤停止といった懲戒処分を行います。
最高裁判決平27年2月26日
【事案】
水族館の男性社員2名が、それぞれ複数の女性社員に対し、性的な内容の発言等によるセクハラを行ったことを理由として、当該会社が当該男性社員をそれぞれ出勤停止の懲戒処分とした事案。
- 度を超えた下ネタ、浮気、女性遍歴、性欲、性癖、性器、性行為等の話をする
- 「こんな年までこんな所で働いて,結婚もせんと親泣くで」
- 「夜の仕事したらええんちゃう。」
- 「もうオバサンやで、もうお局さんやで。皆に怖がられてるで」
- 手を強く手でこすって欲しいと強要し,実際に強引にこすらされた。
【判断】
➊極めて露骨で卑わいな発言等を繰り返すなどしたものであること、❷会社がセクハラ防止のために種々の取り組みを行っていたこと、❸男性社員は、セクハラ防止のために指導するべき立場にあったこと、❹女性従業員が、男性社員の行為が一因となって、退職を余儀なくされていること等を理由に出勤停止処分は有効であると判断しました。
東京地判平成23年1月18日
【事案】
男性社員が女性社員に対して、突然、「腹ぼて」「胸が大きくなった」などという発言をしたことを理由に譴責(けんせき)の懲戒処分とした事案
【判断】
男性社員の発言は、故意による性的嫌がらせ行為であるとまではいえないから、その違法性の程度が軽微であること、譴責処分が懲戒処分の中でも最も軽度なものであることに照らせば、譴責処分は有効であると判断しました。
セクハラ行為は放置しない
企業がセクハラ行為を察知した場合、セクハラ行為の調査を行った上で、これを放置せず適切に対応しなければなりません。
セクハラ対策は義務
企業は、職場におけるセクハラを防止するために、セクハラの相談体制を整備するとともにセクハラに対応するために必要な措置を講じる義務を負っています。
この義務は、男女雇用機会均等法で規定されています。
使用者がセクハラを防止するために必要となる措置を講じない場合には、厚生労働大臣ないし都道府県労働局長から、報告を求められ、又は助言、指導若しくは勧告されることがあります。是正勧告に従わない場合には、企業名が公表されたり、20万円以下の過料に処される場合があります。
損害賠償を受けるリスク
企業もセクハラ被害者に対して損害賠償を支払う可能性があります。
職場でセクハラが行われた場合、セクハラの加害社員が被害者に対して、損害賠償義務を負うことは当然です。
会社は、セクハラを行った社員を雇用して事業活動を行っているため、セクハラ行為について使用者責任を負います。そのため、会社は、加害社員と連帯してセクハラの損害賠償義務を負います。
また、事業者は、男女雇用機会均等法によりセクハラ防止に必要な措置を講じる義務を負っています。
会社が、セクハラ行為を把握したにも関わらず、セクハラ行為を漫然と放置したような場合には、法令上の義務に違反します。そのため、会社は、セクハラ被害者から、直接損害賠償の請求を受ける場合があります。
人材の流出を招く
職場内のセクハラが蔓延している事業所で働きたいと思う人はいないでしょう。セクハラを漫然と放置する企業に対する愛着心も薄れていきます。
そうなると、社員のモチベーションは悪化していきます。
結果として、社員の流出を招きます。さらに、SNSや転職掲示板などへの書き込みにより、企業の悪評が拡散され、新たな人材の獲得も難しくなるでしょう。
セクハラに対して処分する流れ
セクハラを理由とした処分を行う場合、セクハラ被害の認識から処分までのプロセスを適切に行う必要があります。
就業規則の定めが必要
懲戒処分を行うためには、就業規則や雇用契約書に懲戒処分の理由(懲戒事由)と懲戒処分の種類を規定されている必要があります。
就業規則等に定めのない理由で懲戒処分はできません。就業規則に定められていない懲戒処分を行うこともできません。
あらかじめ就業規則の内容を確認し、セクハラ行為とこれに適合する懲戒処分が規定されているかをチェックしておきましょう。
事実関係の調査
セクハラ行為を理由に懲戒処分で最も重要なプロセスが、事実関係の調査です。
被害社員の申告を精査することなく、これを鵜呑みにして懲戒処分することは厳禁です。
セクハラ行為が職場内で公然と行われている場合には、その他の従業員から聞き取りによって、セクハラの事実関係を認定させることはできます。
他方で、被害社員への強制性交などの犯罪行為や身体の接触を行うセクハラは、加害社員と被害社員の2人だけの場面で行われる子供多いため、セクハラ行為の事実認定が難しくなることもあります。
そこで、被害社員のヒアリングやこれと整合する資料を基に、加害社員の供述を踏まえて、セクハラの事実関係を認定します。
事実関係の調査の詳細は後述しています。
懲戒処分の選定
セクハラの事実を認定できる場❻には、具体的な事情を踏まえて、適切な懲戒処分を選択します。
懲戒処分を選定する上で考慮する事情は以下のものがあります。
➊セクハラの態様・・・悪質であれば重い処分
❷セクハラの回数や頻度・・・多ければ重い処分
❸被害社員の被害の程度・・・深刻であれば重い処分
❹加害社員の職位・・・責任ある地位であれば重い処分
❺加害社員の反省の弁・・・反省していない、虚偽の供述をしていれば重い処分
❻処分歴の有無・・・処分歴があれば重い処分
言い分を述べる機会
懲戒処分は、企業から労働者に対する一方的な不利益な処分です。
そのため、懲戒処分を行うにあたっては、労働者に対して、言い分を述べる機会を与えたり、賞罰委員会の開催といったプロセスを踏む必要があります。
懲戒処分を通知する
懲戒処分を行う場合には、必ず書面によって通知します。
懲戒処分は口頭でも行うことはできます。
しかし、処分の内容や理由が、口頭では曖昧になります。そのため、懲戒処分を行う場合には、必ず処分内容と処分理由を記した書面によって通知するようにします。
配置転換を行う
セクハラで懲戒処分を行う場合には、加害者と被害者を引き離すために、配置転換もすることも検討します。
加害者と被害者が業務上の接点を持つ場合には、配置転換をする必要はあります。他方で、業務上の接点がない場合には、配置転換の必要はそこまで高くはありません。
配置転換をする場合、セクハラの加害社員がある程度の役職者であることを理由に、被害社員を配置転換させることは、控えなければなりません。
セクハラの事実調査
セクハラを理由とした懲戒処分においては、セクハラの事実を適切に行うことが非常に重要です。
被害社員の被害申告を鵜呑みにした懲戒処分は不当な処分となります。
事実調査の流れを説明していきます。
相談窓口等で概要を聞き取る
相談窓口や上長等が被害社員からセクハラ被害の相談を受けた場合には、被害社員からセクハラの事実関係を適切に概要を聞き取ります。
被害社員が情報の拡散を恐れて被害申告できずにいることはよくあります。そのため、被害社員以外の社員からの情報提供を端緒に、被害社員から聴き取りを行うケースもよくあります。
被害社員からは、いつ、どこで、だれに、どのような態様でセクハラを受けたのかを時系列に沿ってセクハラ被害の概要を聞き取りします。
その上で、被害社員が加害社員に対して、どのような処分を求めるのかを聴取します。
セクハラ被害は、センシティブな問題ですから、できれば相談員は被害社員と同性の社員が望ましいでしょう。
相談員は被害社員に対して、処分に至るまでの流れを説明した上で、セクハラ被害に対して適切に対応するため、調査担当の部署や上長に申告内容を報告することを伝えます。
被害社員としては、相談内容が拡散することを危惧するのが通常ですので、被害内容が拡散されないことを伝えておくことも大切です。
調査チームの立ち上げ
被害社員からの被害申告を受け、その内容が懲戒処分に付すべき重大なものであれば、事実関係の調査のために調査チームを立ち上げることになります。
調査チームのメンバーには必ず女性を入れようにします。
また、情報が漏えいすることを防ぐためメンバーの人数は必要最小限に留めます。
被害者からの聴き取り
セクハラ被害の詳細を認定するため、セクハラ被害者の聴き取りと裏付けとなる証拠の収集を行います。
まずは、被害社員からセクハラの事実関係をヒアリングします。
被害状況を5W1H(いつ、どこで、だれが、なにを、どのようにして)を意識して聞いていきます。
被害者から聴き取り時の注意点
被害社員は、深刻な精神的な苦痛を受けていることも多いため、被害社員の心情にも配慮しつつ、傾聴する姿勢でヒアリングを行うようにしましょう。配慮のない質問方法や関連の薄い質問内容は2次被害を招きます。
また、ヒアリングに際して、担当者の印象だけで、被害社員にも落ち度がある、被害社員も同意していたのではないか、といった決めつけをすることは控えなければなりません。ただ、男女関係のもつれから、合意による男女関係であったにもかかわらず、関係が悪化したために、セクハラ被害を虚偽申告することケースもあります。そのため、承諾があったことも頭の隅に置きながら、被害社員の供述の聴き取りを行うようにしましょう。
客観的な資料の提出を求める
セクハラ被害に関連する資料の提出も求めます。LINEやSNSのメッセージの履歴、動画や音声の記録があれば、提出してもらい、被害社員の供述との整合性を念入りにチェックします。また、セクハラの目撃者や相談者がいないかも確認します。
第三者からのヒアリング
セクハラを目撃していたり、セクハラ被害の相談を受けていた第三者がいる場合には、加害社員のヒアリング前に、その第三者からのヒアリングを行います。
ただ、当事者以外の第三者に対してヒアリングを実施する場合には、被害社員から予め承諾を得ておきましょう。
加害社員からのヒアリング
加害社員からも、被害社員と同様に、ヒアリングを行います。
加害社員の聴き取りの注意点
加害社員のヒアリング時には、以下の点を注意します。
加害社員が加害者であると決めつけてヒアリングすると、適切なヒアリングが行えません。できる限り、加害者であるとの先入観を持たずに、フラットな目線でセクハラの状況を聞き取ることを心がけます。
また、被害者の聞き取り状況や証拠の内容を提示することも控えるべきです。手持ちの証拠や聴き取り状況を開示してしまうと、かえって加害社員の警戒度を高めてしまい、十分な聞き取りができなくなるおそれがあるからです。
さらに、加害社員が不合理な供述や矛盾する供述をしても、加害社員を激しく追求したり、論破するような対応は控えます。あくまでも事実確認を行うことを目的としていることに留意しましょう。
事実認定を行う
当事者のヒアリングや収集した資料から、セクハラの状況を認定していきます。
整合しない部分がなければ問題はありません。
しかし、当事者の主張に食い違いがある場合には、証拠がないことをもって セクハラの判断はできないと安易に結論付けるべきではありません。被害社員の供述の一貫性、具体性(迫真性)、証拠との整合性、加害社員の日常の言動、態度、酒席での発言等を踏まえながら、被害社員の供述が信用できるかを判断します。
仮に、被害申告までにタイムラグがある場合には、被害女性特有の心理や行動パターンを踏まえて不自然といえるかを検討します。
予防策を講じる
事業主は、セクハラを防止する義務を負っています。
そのため、セクハラが発生しないよう、適切な予防策を講じなければなりません。
ルール作りと周知徹底
セクハラ防止のため、セクハラの社内規定を整備し、セクハラ防止に向けた方針を明確に打ち出します。
朝礼や会議の際に、社内規定を配布した上で、どのような行為がセクハラにあたり、セクハラによってどのような処分を受けるのかを周知するようにします。
アンケートの実施
セクハラの被害申告はとても勇気のいる行動です。なかなか被害申告できずに泣き寝入りしているケースも多くあります。
そのような事態を避けるため、定期的にセクハラのアンケート調査を実施します。アンケート調査は、セクハラ被害を早期に発見できるだけでなく、社員のセクハラの問題意識を維持する効果もあります。
研修の実施
社員教育の一環として、セクハラの社内研修を実施します。
セクハラに当たる行為、セクハラによって被害者に与える影響、セクハラによって受ける処分などのセクハラの知識を深め社員のセクハラに対する問題意識を高めます。
厚生労働省のセクハラ対策の解説はこちら
セクハラを理由とした処分は弁護士に相談を
セクハラの問題は、センシティブな問題です。無暗に調査をしたり、早計な処分をすると、かえって問題を複雑にします。
当事務所には、中小企業診断士である弁護士が在籍しており、中小企業法務全般を得意としています。
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