労働審判とは?労働審判のメリット、流れ、費用を弁護士が解説

公開日: 2023.06.08

労働問題の解決方法の一つとして「労働審判」があります。

今回の記事では労働審判のメリットや流れ、必要となる費用を解説します。

労働審判とは

労働審判は、2004年に成立した労働審判法に基づく制度です。労働者と事業主との間の労働紛争について、裁判官と労働関係の専門的な知識・経験を持つ労働審判員の参加の下、労働紛争を迅速かつ適切に解決をさせる手続きです。

訴訟手続との違い

労働紛争を解決させる裁判所の手続きには、労働審判のほか、訴訟手続きがあります。労働審判と同じように不当解雇や残業代といった労働問題を扱う手続きです。しかし、訴訟手続きは、労働審判よりも遥かに時間がかかり、短くても1年でしょう。さらに、審理についても、労働審判よりも慎重に行います。

あっせんとの違い

あっせんとは、紛争調整委員会が仲裁し、当事者間の話し合いによる解決を促す手続きです。あっせんには、労働委員会によるあっせん、労働局のあっせんのほか、社労士や弁護士会の行うあっせんもあります。

あっせんも話し合いによる解決である点で共通しています。しかし、あっせんの申立てがあっても会社は参加する義務はありませんし、あっせん案を受諾する義務もありません。他方で、労働審判については、出頭命令に従わない場合には5万円以下の罰金が科される場合があります。また、労働審判が、不服申立てをされずに確定すれば確定判決と同様の効力を持つことになります。

労働審判のメリット・デメリット

労働紛争手続きには労働審判以外にも存在します。その中で労働審判を選択するメリットを説明します。また、労働審判を選択することのデメリットも解説します。

迅速な解決が可能

通常の訴訟手続だと、裁判期日の回数に制限はありません。そのため、通常の訴訟をすると、解決までに1年以上かかることは普通です。

これに対して、労働審判では、原則として裁判期日3回以内で審理を集結しなければならないという制限があります(労働審判法第15条第2項)。そのため、平均約2か月半で審理が完了しており、非常に迅速な解決を実現することができます。この点は労働者・事業主の双方にとって大きなメリットといえます。

労働問題の専門家が参加する

労働審判には、裁判官だけでなく、労働審判員という労働問題の専門的な知識と経験を有する専門家が審理に参加します。そのため、労働現場の実情に即した解決をすることが期待できます。

口頭主義

通常の訴訟手続きの場合、お互いに自分の主張を記載した書面を提出し合うことで審理をしていきます。

これに対して、労働審判では、口頭による説明が重視されます。申立書に対して、会社側は答弁書を提出して反論します。ただ、第一回期日において、裁判官が労働者と会社側の双方から事情を聞き取った上で、争点を明確化させていきます。その後は、労働者側と会社側が入れ替わりで、審判委員会から各当事者の意向や解決案の調整を行なっていきます。一部、書面により主張反論を補充することはありますが、メインは口頭による調整となります。

これにより、書面を作成する準備期間が不要となりますし、裁判所・審判員としては事情を当事者から直接聞くことができるので、心証形成も早く行うことができ、紛争が早期に解決できることになります。

不服申立てされると解決できない

労働審判では、早い段階で労働審判委員会から調停案が出されます。当事者がこれに応じると調停が成立して、判決と同一の効果が生じます。

もし当事者が調停案に応じない場合は、調停は打ち切られて、労働審判がなされます。労働審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内に異議申立てがなされなければ、労働審判は確定します。労働審判が確定すると、これも判決と同一の効力を生じます。しかし、労働審判に対して異議が申し立てられると労働審判は効力を失い、通常の訴訟に移行します。

早期解決を目指すのであれば労働審判

このように、労働審判における調停や審判には強制力はありませんが、その迅速な手続きの中で当事者が歩み寄れる妥当な解決策にたどり着くことができることは多く、労働審判を用いるメリットは大きいでしょう。また、もし解決に至らなかったとしても、その手続きの中で当事者の主張立証や争点整理はおおむね済んでいるため、そのあとの通常訴訟もスムーズに進むことになります。

労働審判の流れ

労働審判の申立てから解決するまでの流れを解説していきます。

申立資料の準備

まず、労働審判は、労働者により裁判所に対して労働審判の申し立てがされることにより介します。

申し立ての際は、申立書と証拠資料を作成し裁判所に提出します。

労働審判の申立て

裁判所は、申立ての形式的な審査をし、不備がなければこれを受理して第1回期日の指定と当事者の呼び出しを行います。

この第1回期日は、原則として申立てから40日以内の日でなければなりません。

事業主側である会社は、裁判所からの呼出状を受けて初めて労働審判の存在を認識することになります。

会社は、裁判所が指定する期限までに、労働者の申立てに対して反論するための答弁書と証拠資料を提出しなければなりません。

TIPS!提出する裁判所

申立てをする裁判所は、会社の本社の住所か労働者が勤務していた事業所の住所を管轄する地方裁判所です。裁判所には、支部がありますが、労働審判は本庁で行うのが原則となっています。

第1回期日

第1回期日では、裁判官である審判官1名と労働問題の専門家である審判員2名からなる労働審判委員会から、申立書と答弁書をもとに、当事者に対して質問がなされます。

会社の答弁書における反論に対して、労働者に再反論がないか確認するなどします。

前述のとおり、申立書・答弁書は書面による主張の提出として行われますが、それ以降の主張・反論は口頭で行われるのです。

その質問のやり取りを経て、労働審判委員会はどちらの主張が合理的か心証をある程度形成していきます。

その後、片方の当事者を退席させ、もう片方の当事者から個別に事情を確認し、その後後退してまた別の当事者から個別に事情を聴きます。そこで双方が譲歩して合意できるラインを探ります。

 これらを経て、労働審判委員会は、心証を当事者に開示したりするなどして、調停に応じるよう促します。

第2回期日以降

第2回・第3回期日でも同様の流れで進み、その中で当事者が歩み寄ることができれば調停が成立します。裁判所は当事者に対して、訴訟に移行した場合の見通しも提示した上で、比較的強めの説得を行うことが多い印象です。そのため、多くの事案では、労働審判されることなく調停が成立します。

それでも話し合いが難しければ最終的に労働審判が言い渡されます。

労働審判に対して2週間以内にいずれかの当事者から異議が申し立てられれば、通常の訴訟に移行することになります。

労働審判の日数・期間

前述のとおり、労働審判は平均約2か月半で終結していて、7割は3か月以内に終結しています。通常の訴訟であれば1年以上かかることも珍しくないため、労働審判によれば迅速に解決できることが期待できます。

労働審判の対象トラブル

労働審判の対象となるのは、「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」とされています(労働審判法第1条)。

具体的には以下のようなものが挙げられます。

賃金に関するトラブル

賃金に関するトラブルとしてよくあるのが、未払いの残業代です。

いわゆるサービス残業により、実際の残業時間に相当する時間外労働手当が支払われていないなどの理由で、過去の未払いの残業代の支払いを請求するものです。

雇用に関するトラブル

雇用に関するトラブルとしては、会社から解雇をされた場合に、不当なものだとして解雇の無効を訴えるようなものがあります。

パワハラを含む労働トラブル

上司からパワーハラスメントを受けたとして、会社に対してその使用者責任として損害賠償請求をするようなものが考えられます。

ただし、労働審判は労働者が事業主を相手取って申し立てるものであり、個人である上司を相手取って申し立てることはできません。上司個人を訴えるためには、通常の訴訟手続きによることになります。

労働審判にかかる費用

労働審判に要する費用としては、大きく分けて弁護士費用と実費があります。

弁護士費用は、その名の通り労働審判の手続きを代理して行ってもらう弁護士に支払う報酬です。

弁護士費用はさらに以下の3つの種類の費用がかかることが多いです。

労働審判に必要となる費用

  1. 相談料
  2. 着手金
  3. 成功報酬
  4. 実費

相談料

 ①の相談料は、ご自身が悩んでいる労働関係の紛争について、弁護士に初めに相談する際にかかる費用です。

相談料は無料としている事務所も多くありますが、1時間当たり1万円の相談料が平均的です。

着手金

 ②の着手金は、実際に弁護士にその事件の処理を依頼する際に必要な先払いの報酬です。

これは次でみる成功報酬とは異なり、事件処理の成否にかかわらず発生するものです。

着手金の額は、その事件で請求される額の割合で決められることが多く、請求額の5~8%定程度が多いでしょう。

成功報酬

 ③の成功報酬は、事件処理が成功した場合に支払われる報酬です。

事件処理で得られた経済的利益の10~15%程度とされることが多いです。

以上のほかに裁判期日に弁護士が出頭した日数に応じた日当がかかる場合もあります。

実費

 弁護士費用のほかにかかるのは実費です。

実費としては、労働審判の申し立ての際に裁判所に納める印紙代と、切手代が必要です。

印紙代は、その労働審判において扱う訴額に応じて額が決められており、数千円から数万円かかります。

切手代は、労働審判に申し立てた後、申立書や呼出状などを当事者に送付する際などに用いられます。こちらは数百円から数千円程度です。

訴訟移行に伴う費用

もし労働審判で決着がつかず、通常の訴訟に移行した場合は、別途費用が掛かることに注意しましょう。

まず弁護士費用については、着手金が追加でかかる可能性があります。

また、裁判所に納める印紙代と切手代についても別途追加で必要になります。

労働審判における弁護士の活用メリット

通常の訴訟と同様に、労働審判も弁護士に依頼することなく自分で行うこともできます。

しかし、労働審判では、法的な論点について相手方と主張をぶつけ合って自分の主張の正当性を裁判所に認めてもらう必要があります。

法律の知識が乏しい方にとってこれは大変な労力がかかります。

弁護士に依頼することで法的な観点で事実や証拠を整理してそれを論理的に組み立てて法的な主張をしてもらえます。

この点が裁判手続の専門家である弁護士を利用する大きなメリットです。

もしすでに自分で証拠などを的確にそろえることができていて、ある程度自分の主張を整理できている場合や、請求額が低く弁護士費用をかけてしまうと費用倒れになってしまったりするような場合には弁護士を利用しないこともあり得ます。

ただそのような場合も法テラスを利用して費用を少額におさえるなどの方法も考えられるので、ぜひ色々と調べてみるようにしましょう。

労働審判の申立てを受けたら弁護士に相談を

労働審判においても、口頭による協議が多いとしても、その専門性は高く、また、文書を提出する場合でも、会社側の主張・反論を適格に行う必要があります。

決して裁判所からの呼出を無視することなく適切に対応していきましょう。

当事務所では、労働審判を含め多くの労働問題を取り扱っています。

初回30分相談無料にて対応しております。一人で悩まずにまずはお問い合わせください。対応地域は、大阪府全域、和歌山市、和歌山県、奈良県、その他関西エリアお気軽にご相談ください。