労災で治療中に社員を解雇できるのか?休業中の解雇制限を解説

更新日: 2024.07.13

「労災で治療中の社員は解雇できるのだろうか?」

「労災で休業中の社員は、解雇して良いのだろうか?」

と気になりませんか。

結論から言えば、特定の条件を満たさずに労災で治療中の従業員、特に休業中の従業員を解雇することは非常に難しいです。

今回は、労災で治療中の社員を解雇できるのかどうかについてだけではなく、解雇できる場合のその条件や、もしも解雇を強行した場合のデメリットなどについて解説します。

労災中の社員の解雇について悩んでいる方はぜひ、最後まで読んでいってください。

労災で休業中は解雇できない

原則として、労災で休業中の従業員を解雇することはできません。

療養期間と治癒後30日間は解雇禁止

労働基準法19条において、従業員が労災で療養(休業)している期間に加えて、その治癒(症状固定)してから30日間は解雇が禁止されています。

労働基準法は労働者保護のために存在する法律です。労働者が、業務による怪我や疾患を負ったにも関わらず、就労できないことを理由に労働者を解雇できるとなると、労働者の保護に反します。

そのため、労働基準法では、業務災害による療養期間中と治癒後30日間においては、被災者の解雇を禁止しています。

被災者に過失があっても解雇制限

そもそも論として、労災は無過失責任という形をとっています。

従業員に過失があろうがなかろうが、業務と従業員の負ったケガに因果関係があれば会社の責任が認定されるのです。要は誰の過失なのかについては、労災認定において原則として問題にならないからです。労働者の過失は、使用者の損害賠償の問題において、過失相殺として考慮されるに留まります。

過失があっても労働災害とされる以上、被災者の過失を理由に労災であることを否定して解雇することは当然ながらできません。

懲戒解雇も制限される

労災による治療中は、業務上災害に関しては、懲戒解雇も制限されます。

なぜなら、労働基準法19条で解雇そのものが禁止されているからです。解雇の種類は定められていません。社員を解雇(クビ)にするという行為そのものができない、許されないという規定です。例えば、社員が普段から問題行動を起こしており、これをきっかけに解雇したい、というようなやり方は絶対に避けましょう。

そのため、労働者に懲戒事由があっても、解雇制限期間中であれば懲戒解雇することはできません。

私傷病扱いの解雇

労働者が私傷病により休職している場合、休職期間満了時に解雇あるいは自然退職とすることは認められています。

しかし、傷病が業務外ではなく業務上災害によって発生したものであれば、解雇や自然退職は労働基準法19条1項に違反します。例えば、労災隠しなどにより労災認定を受けていないような場合、業務災害として解雇が禁止されることがあります。

労災休業中に解雇できる条件

労災休業中に解雇できる条件は、以下の通りです。

・治癒(症状固定)した後30日以上経過した場合

・通勤災害の場合

・有期社員の雇止めの場合

・傷病補償年金の支払いを受けている場合

・天変地異やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合

・定年退職をする場合

それぞれについて解説します。

治癒(症状固定)した後30日以上経過した場合

労災を起こした社員が治癒(症状固定)した後30日以上経過した場合、解雇が可能です。なぜなら、労働契約法19条は症状固定後30日までしか解雇制限を課していないからです。

ただし、注意点があります。原則として労災を起こして働けていなかったからという理由では解雇できないということです。

症状固定から30日後に解雇可能なことと解雇そのものが果たして有効となるかどうかは別物となります。本人が何事もなく復帰できている場合は、解雇は難しいでしょう。つまり、解雇ができる、というだけで、労働契約法16条の解雇制限はかかるからです。

反対に、症状固定後に30日以上が経過してもなお復職を拒否しないなどの状態にあれば解雇できる余地があります。

単純な問題ではないため、できれば弁護士など法律の専門家に聞いてから対処する方が良いでしょう。自己判断は避けましょう。

通勤災害の場合

通勤災害の場合、たとえ症状固定前であっても解雇は可能です。

なぜなら、通勤災害は業務災害と明確に区別されているからです。労働基準法19条が禁止しているのは業務上負傷した業務災害の療養中の解雇です。

通勤災害は通勤途上の被災であり業務災害とは区別されます。通勤災害も労災の対象に該当しますが、使用者側は通勤災害の責任を原則として負いません。

ただし、通勤災害により就労できないことをもって直ちに解雇することは簡単ではありません。

有期社員の雇止めの場合

有期契約社員(契約社員やパート従業員)に関しては、労災での休業期間中に契約期間が到来する場合、雇い止めをすることができます。

有期契約社員に関しては、契約期間が満了すれば労働契約が終了します。

労働基準法19条が禁止しているのは、解雇ですが、雇止めはここでいう解雇ではありません。そのため、労災の療養期間中であっても雇止めをすることは認められています。

ただし、労働契約をこれまで複数回更新している場合や更新されると期待することに合理的な理由がある場合には、雇止めをする合理的な理由があり、それが社会一般的に相当といえない限り、雇止めは無効となります(雇止め法理)。

打切補償を支払う場合

労基法81条の規定により、労災で療養開始後、3年を経過しても負傷や疾病が治らない場合、会社は打切補償として平均賃金の1200日分を支払うことにより、解雇をすることが可能となります。

ただ、解雇制限がなくなるだけであって、理由もなく解雇することはできません。したがって、打切補償により解雇制限がなくなっても、解雇について客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には解雇は許されません(労働契約法16条)。

傷病補償年金の支払いを受けている場合

労災保険法19条において、傷病補償年金を受け取る事態になった場合には、先ほど解説した打切補償を受け取ったことと同様の状態になり、解雇制限がなくなります。

簡単に言えば、療養開始から3年を経過したあとに、1200日分のお金を支払うか、傷病補償年金を受け取るに至った場合は労災に対する補償がある程度行われたとして、解雇制限が解除されるのです。

労災保険法第19条

業務上負傷し、又は疾病にかかった労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けることになった場合には、労働基準法第19条第1項の規定の適用については、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることになった日において、同法第81条の規定により打切補償を支払ったものとする。

天災事変やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合

天災事変やこれに準ずる程度の不可抗力などの突発的に発生する事由により、事業の継続ができなくなるような場合には、解雇制限がなくなります。

ただし、所轄労働基準監督署長の認定を受けることが必要となります。

定年退職をする場合

解雇制限期間中に定年を迎えて退職をする場合、解雇ではなく単なる定年退職となります。あくまでも、法律上禁止しているものは解雇ですので、解雇には該当しない定年退職は制限されません。

ただし、定年退職後の再雇用の問題は残ります。継続雇用制度を採用している場合、再雇用されると期待することに合理的な理由があれば、定年退職後の再雇用を拒否することが認められないこともあります。

解雇制限に反する解雇をした場合のデメリット

ここでは、解雇制限に反する解雇をした場合のデメリットについて解説します。

解雇が無効となる

解雇制限に反する解雇は無効となります。仮に、解雇理由があったとしても、解雇制限期間中であれば、解雇は不当解雇となります。

その結果、解雇処分をしたとしても、労働者との雇用契約は存続していることになります。

バックペイの負担

解雇処分が無効となることで企業は、解決時までの賃金相当額を負担しなければなりません。

解雇処分後に職場に復帰できる状態になっても、不当解雇により職場復帰しようにもできない場合には、企業は社員に対して賃金を支払う義務を負います。この企業が負担する賃金をバックペイと呼びます。

バックペイは、労働者が職場復帰したり、合意退職するなど、解雇の問題が解決するまで負担しなければなりません。

労働審判や労働訴訟で争われる

解雇制限に違反した解雇処分をすると、解雇問題が労働審判などの紛争に発展するリスクがあります。

労働審判や労働訴訟に発展すると、弁護士に依頼するための経済的な負担を強いられるだけでなく、これらに対応するための資料の準備や弁護士との打合せ、裁判所への出頭といった負担も生じます。また、労働組合の団体交渉を求められることもあります。

さらに、不当解雇が裁判で争われると、社員のモチベーションが低下したり、取引先等の第三者の評価を悪化させることもあります。

罰則(労働基準法119条1号)

労働基準法119条の1号により、解雇制限を守らずに解雇した場合、懲役6ヵ月以下の懲役または、30万円以下の罰金刑に処せられる可能性があります。労災休業中ではない解雇の場合、刑事罰ではなく民事(お金だけで解決できる裁判のこと)で争われることになりますが、労災休業中の解雇では刑事罰に処せられる可能性があるということです。

社員の解雇問題は弁護士に相談を

 社員の解雇問題は法的に非常に複雑であり、誤った判断や手続きが重大なリスクを招く可能性があります。特に労災による休業中の解雇については、労働基準法が厳しく制限しているため、法律の十分な理解と適切な対処が求められます。

そのため、解雇処分をするにあたっては、あらかじめ専門知識を持った弁護士のアドバイスが不可欠です。

初回相談30分を無料で実施しています。 

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