契約書とは何か?
契約書とは、端的に言うと、契約が成立したこと、その契約の内容を事後的に証明するための文書といえます。
契約当事者には、会社や事業主に限らず、個人なども広く含まれます。
また、契約書の表題には、契約書だけでなく、合意書、覚書、念書といったように、様々な題名や名称が使用されます。
この契約書には、合意内容に応じた、さまざまな種類の契約書があります。
- 家や車を買う際に作成する売買契約書
- 会社に入社する時に作成する雇用契約書
- 建物や機械の製作を依頼する時に作成する請負契約
- 家を借りる時に作成する賃貸借契約書
このように世の中にはさまざまな種類の契約書が存在しています。いずれの契約書にも共通していることが、契約の当事者は、原則として契約書に記載されている事項を守らなければならないということです。
業務委託契約書の作成方法に関するコラムはこの解説を参照してください。
契約書を作成する理由
契約は口頭でも成立する
契約は、申し込みとこれに対する承諾によって成立します。保証契約のように、契約書の作成が契約の成立要件となっているものもありますが、それ以外の多くの契約は口頭による申し込みと承諾でも成立します。つまり、契約が成立するためには契約書は必要ありません。それでもなお、契約書の作成が必要とされる理由はどのようなものがあるのでしょうか?
将来の紛争時に合意内容を証明できる
先程解説したように契約書とは、当事者間で合意した約束事を事後的に証明できるようにするための文書です。
契約は口頭でも成立しますが、将来、裁判などの争い事に発展してしまった場合、口頭での合意では、契約内容を、契約当事者ではない裁判官に十分に説明することができません。
すなわち、裁判などの争い事に発展してしまっている以上、契約の相手方は相手方自身に不利益となるような事項を積極的に認めることはしません。そのため、自分自身にとって有利となる契約内容を、将来の裁判手続等で証明することができない事態を招くことになります。証明することができないということは、その契約内容は存在しないものと認定されます。
では、契約書はないものの、その他の証拠方法で証明することはできるのでしょうか?
契約書はないものの、メモ書きやメールによるやりとりで契約内容を証明することもできるかもしれません。しかし、これらの内容が不明瞭なものであれば、契約内容の証明は十分にできない可能性もあります。
さらには、ご自身が記憶している契約内容を証人尋問や当事者尋問により話すことで証明したいと思う方もいるかもしれませんが、裁判手続では証言や供述のみで契約内容を認定することはありません。まずは、契約書等の客観的な資料をベースとした事実認定を行い、不足する事項を証言や供述などによって補足することが多いです。
このように、将来、取引に関する争い事が生じた際に、手続を自社の有利に進めるためにも契約書の作成は非常に重要です。
紛争を予防する
契約書を作成しておけば、裁判などの紛争それ自体を予防することができます。
口頭による契約の場合、契約書を作成している場合と異なり、当事者間で、あらかじめ契約内容を検証し、これを確認する過程を経ないため、契約内容の認識の不一致が生じやすいのです。
例えば、中古車の購入を口頭でした後、中古車に不具合が生じたため、買主が売主に対して修理の請求をしたケースを想定します。
売主は、契約時に中古車の故障などの不具合は責任を負わないと口頭で説明したと主張しますが、買主は『そんなもの知らない!』と言い張ります。
このように、契約書がなければ、契約内容の確認ができない以上、契約内容について言った言わないの水掛論となってしまい、裁判などの紛争を誘発してしまいます。
他方で、契約書があれば、売主は車の不具合について責任を負わないことを事後的に証明できますし、買主も契約書の内容を改めて確認すれば、売主の免責を確認することができます。また、買主は、契約書に書かれている内容を確認した上で購入している以上、車の品質の不具合についてある程度納得して購入してるといえます。そのため、買主としては、契約書の内容等を踏まえて中古車の不具合について訴訟提起などを控えることも期待できます。
以上のように契約書は、将来の紛争を未然に防止する機能を有しているといえます。
契約書の作成を敬遠する理由
上記で解説しましたように、個人間であろうと、事業者間であろうと、何らかの契約を締結する場合には契約書は作成するべきです。取引額が比較的大きかったり、その取引が契約当事者に与える影響が大きいものである場合には、特に契約書を作成しておく必要性は高まると言えます。
それでもなお、契約書を作成していない事案は多数存在しています。その考えられる理由は以下のようなものです。
- 業界の性質上、契約書を作成する慣習がなく、信用取引が通例とされている
- これまでトラブルに発展したことがない
- 契約書の作成をすると取引先との信頼関係が崩れる
しかし、上述したように、契約書がないことによって、思ってもいない責任を取らされるリスクがあります。これまで紛争に発展してこなかったとしても、社会情勢が目まぐるしく変わる現代においては、突然これまでの取引通例が通用しなくなり、取引先との関係が悪化することも容易に予想することができます。
むしろ、契約書の作成は、互いに契約内容の検証と確認を行うことで、将来の紛争を予防し取引関係を維持するために行う、という前向きな姿勢を持つことができれば、契約書の作成は前進し易くなるでしょう。
契約書チェックを弁護士に依頼する理由
では、その契約書の内容はどのようなものであれば良いのでしょうか?
一義的で明確な内容であること
契約書を作成する理由が、契約内容を書面化することで紛争を予防するという点でした。
そうであれば、当事者間で理解することのできる記載内容であれば足りるとも思えます。
しかし、時間の経過に伴って、合意内容の記憶は薄れていきます。
それにもかかわらず、契約書の内容が当事者でしか分からないような不明瞭な内容だと、将来その契約書の内容に対する解釈の違いが生じる可能性があります。しかも、契約当事者の立場の違いによって、自社に有利な方向で解釈しようとすることは往々にしてあります。
そのため、契約書の内容は誰が見ても理解ができるような一義的な内容であることを要します。一義的で明確な内容といえるためには、要件事実という法律上の効果を導くための具体的事実を記載するとともに、契約書作成のルールを沿った内容であることが必要となります。
法令や判例と適合しているか
契約内容がいくら一義的で明瞭であったとしても、法令や判例に抵触する内容ですと、契約全体、あるいは、規定の一部が無効となる可能性があります。また、法律上の効果を生じさせるためには、その効果を導くための具体的事実(要件事実といいます。)を明確に記載しなければ、いくら契約書を作成したとしても法律上の効果は生じません。
法令には、民法や会社法といった基本六法と言われる法令だけでなく、個別の取引に対応する特別法も含まれ、契約内容がこれら幅広い法令と適合しているかをチェックしなければなりません。
しかも、法令は定期的に改正され、最高裁の判例も逐次出されますので、契約書の内容をこれらにマッチさせる必要があります。
これらの作業には、当然ながら、基礎的な法的な知見が求められるだけではなく、当該取引に適用される特殊な法律や判例などを幅広く調査し、契約内容がこれらに抵触しないかを調査・検討する能力も求められます。
弁護士は、以上のような作業を業務として扱う法律専門家です。そのため、契約者のチェックに際しては、弁護士によるアドバイスを受けることを推奨します。
自己満足な契約内容を回避する
契約当事者は、常に対等というわけではありません。特に、元請企業や下請企業の関係のように、一方当事者は他方当事者の言いなりになりやすいのが現状です。
このような取引関係においては、当事者間に力関係が存在することは否めませんが、下請法や独占禁止法などの法令により、無制限に契約内容を決めることはできません。
また、下請法等の法令に抵触しないとしても、契約当事者の一方が、相手方にリスク管理を行う能力が不足しているにも関わらず、何でもかんでもリスクを相手方に押し付けてしまうと、かえって、本来は生じずに済むような紛争を誘発させることになりかねません。
さらに、当事者一方にのみ利益となるような契約内容は、取引当事者の信頼関係を傷つけることにもなり、安定した取引関係の構築を妨げる要因にもなります。
そのため、契約書の作成に際しては、相手方当事者の地位や能力等を検討した上で、当事者間の均衡を保てるような内容となっているかをチェックすることを要します。
契約書の基本構成
では、契約書を作成するとして、具体的にどのような内容が適切なのでしょうか。
詳細は別コラムに譲りますので、以下では概要のみを解説します。
契約書は、以下のような構成で作成されることが多いです。
①契約書名
②前文
③本文
④後文
⑤契約の日付
⑥署名または記名押印
覚書の作成方法については、こちらのコラムを参照ください。
① 契約書名(題名)
契約書名には、〇〇契約書や覚書、念書といったものが使用されることが多いです。
契約書の表題がなくても、契約の成立自体に直接影響はありません。
ただ、契約内容が特定の取引に関するものであれば、契約書名はその取引内容を予測できるものにするのが望ましいです。例えば、事業用の賃貸に関する契約であれば、『事業用賃貸借契約書』、中古車の売買であれば『中古車売買契約書』といった具合です。
② 前文
契約を締結する目的や契約締結に至るまでの経緯、契約当事者の氏名が記載される箇所です。本文に入るまでの2行から長くても4行程のシンプルなものです。
株式会社○○不動産(以下,「甲」という。)と○○株式会社(以下,「乙」という。)は,本日,以下に定めるとおり売買契約 (以下 「本契約」 という。) を締結する。
③ 本文
契約の各種条件を規定する契約書の中核となる箇所です。本文には、以下のように契約に基づく権利義務に関する契約条項や全ての契約に共通する一般条項を設けることを要します。さらくに、契約締結後の不測の事態に備えるリスク管理に係る条項も規定することもあります。
契約条項
契約によって生じる当事者の権利・義務の内容を定めた規定です。契約書において契約目的を達成するための中心的な規定といえます。
(売買)
第〇条 甲は乙に対し、本件自動車を〇〇万円で売り渡し、乙はこれを買い受けた。
(売買代金の支払)
第〇条 乙は、本日、本件自動車の手付金として金〇〇万円を甲に支払い、甲はこれを受領した。
2 乙は甲に対して、前項の手付金を除いた残代金を令和〇年〇月〇日限り甲が指定する銀行預金口座に振込む方法により支払う。支払手数料は乙の負担とする。
一般条項
有効期間
どのような内容の契約であっても、契約期間の定めは必要です。なぜなら、契約期間の定めがなければ、いつまで契約に拘束されるのかが不明確となりトラブルを招くからです。
(有効期間)
第〇条 本契約の有効期間は、令和〇年〇月〇日から一年間とする。
解除条項
民法上、契約を解除することができるのは、履行遅滞や不完全履行などの債務不履行が存在することに加えて、その債務の履行を求める催告をすることを要します。
しかし、履行の催告をしている間に商品を転売されたり処分をされることで、これら商品の返還を求めることがてきなくなるリスクがあります。
そこで、契約書において、催告をせずに解除できる規定を設けることがあります。
(無催告解除)
第〇条 甲及び乙は、次の各号に該当する場合、何らの催告をすることなく、直ちに本契約を解除することができる。
①・・・
②・・・
リスク管理条項
代金の支払時期
売買代金や請負代金などの代金の支払時期を、商品やサービスの提供前にするのか後にするのかという問題です。売主側からすれば、商品等を提供する前か、あるいは、同時とするのが望ましいでしょう。
損害賠償に関する規定
当事者双方の損害賠償義務についての内容です。損害賠償義務についての規定がなくても、民法や会社法などの一般原則に従って損害賠償責任を追求することは可能です。
そのため、契約書にあえて損害賠償義務に関する規定を設ける場合とは、契約違反があった場合に、その損害賠償責任を一部に限定するような規定(賠償責任は20万円を超えない、損害は直接かつ現実に生じたものに限るなど)、そもそも契約に適合しない場合でも免責するという規定を設ける場合です。
(損害賠償)
第〇条 甲が乙に対して負う損害賠償の限度額は、その請求原因の如何を問わず、乙が現実に被った直接かつ通常の損害に限定され、かつ、その損害賠償の金額は、本製品の売買代金の20%を超えないものとする。
不可抗力の条項
例えば商品の引渡期限までに商品を引き渡すことができない場合、売主は債務不履行に基づく責任を負います。
しかし、その債務不履行が天変地異などの不可抗力によって生じたものであれば、債務不履行による責任から免れることができます。そして、あらかじめ不可抗力に該当する事由を契約書に列記することで、何が不可抗力に該当するのかに関する争いを排除することができます。
(不可抗力)
第〇〇条 第3条の引渡日までに、天変地異、戦争、テロ、暴動、盗難その他の不可抗力及び甲の責めに帰することのできない事由により本契約の履行が不能となった場合は、甲及び乙はその責めを負わない。
契約不適合責任に関する条項
民法上、契約の目的物について、種類、品質、数量等に関して契約内容の不適合がある場合には、買主は、売主に対し、目的物の修補や損害賠償などの契約不適合に関する責任を追及することができます。しかし、この契約不適合の責任は任意規定ですから、契約によってこれを免責とすることができます。ただし、相手方が一般消費者の場合には、消費者契約法の適用により、契約不適合責任の免責は無効となります。
(契約不適合責任)
第〇〇条 甲及び乙は、本件製品を現状のまま引き渡すことに鑑み、甲が、乙に対し契約不適合責任の一切を負わないことを確認する。
④ 後文
作成した契約書の通数やその保有者を記載します。
本契約の成立にあたり、本書2通を作成し、甲乙各記名押印のうえ、各1通を保有する
⑤ 契約の日付
通常は契約書を作成した日付を記載します。契約書の日付を過去に遡らせることもありますが、契約書の信用性が低くなりますので、日付のバックデートは控えた方が良いでしょう。
⑥ 署名または記名押印
署名とは自身の氏名を自筆で書くことを言います。
記名とは、自筆に限らずゴム印や印刷により、自身の氏名を表記することをいいます。
押印は自身の印鑑を捺印することです。
契約書作成のプロセス
弁護士が契約書を作成するプロセスは事案によってさまざまですが、一般的にはヒアリングをした上で契約者案を作成し、これを基に相手方との契約交渉を進めてもらいます。ケースによっては、弁護士が会社に代わって代理人として契約交渉を行うこともあります。
契約書の文案の作成にあたって、まずは相手方に文案の作成を依頼することもあるかもしれませんが、できるだけ自社において契約書案を作成するように進めるべきでしょう。なぜなら、契約書案を作成することで、これをベースとした契約交渉を進めることが期待できます。そこで、契約書案に可能な限り自社に有利な条項を盛り込む(少なくとも自社に不利な条項は控える)ことで、自社の利益の最大化を実現できるからです。
その後の契約交渉の過程においては、できる限り交渉経過の記録化を意識して下さい。万が一、将来的に契約内容の解釈等に争いが生じてしまった場合に、メールなどの交渉記録が契約内容を解釈する材料となる可能性もあるからです。
最後に
契約書の作成には、高度な法律知識が求められます。インターネットなどで流通する契約書の書式では、個別の取引に対応することはできないこともあります。
契約書の作成にご不安がありましたら、一度ご相談ください。当事務所では初回相談30分を無料とさせて頂いています。お気軽に弁護士にご相談ください。