懲戒解雇は、懲戒処分の1つであり、労働者の地位を一方的に奪う非常に重い制裁です。その上、退職金の全部または一部が不支給となるケースもあり、労働者には重大な影響を生じさせます。
そのため、懲戒解雇は、非常に減額な条件を満たして初めて有効となります。十分な理由もなく懲戒解雇をすると、労働者やその代理人弁護士から解雇無効の通知が出されてしまいます。
解雇が無効となれば、労働者の給与や解決金といった経済的な負担が生じます。それだけでなく、評判の低下や社員の離職により業務効率の悪化も招きます。
懲戒解雇をするにあたっては、事前の準備が重要です。事前の準備もなく無計画に懲戒解雇をすると、使用者には大きなデメリットが生じます。
本記事では、懲戒解雇のデメリットや対策を解説します。
懲戒解雇のデメリット
懲戒解雇が無効となると、使用者側には多くのデメリットが生じます。懲戒解雇の条件を解説した上で、懲戒解雇のデメリットを紹介します。
懲戒解雇の条件
懲戒解雇が有効となるためには、厳格な条件を満たす必要があります。
懲戒解雇は、使用者が、就業規則で定められた問題行為を行った労働者との雇用契約を一方的に終了させる制裁をいいます。
懲戒解雇は、懲戒処分の中でも最も重たい処分の一つです。そのため、懲戒解雇が有効となるためには、解雇する合理的な理由が客観的に認められ、重すぎない処分であることが求められます。
しかし、解雇とする十分な理由がないにも関わらず懲戒解雇の処分を下すと、懲戒解雇は無効となります。
バックペイの負担
懲戒解雇が無効となると、使用者には、労働者に対して、給与や解決金を支払う負担が生じます。
解雇が無効になれば雇用契約は存続していることになります。労働者は仕事をすることで、その対価である賃金を得ることができます。しかし、労働者は、責めがないのに使用者の一方的な解雇処分により出社することができなくなります。
このような場合、法律上、労働者は使用者に対する給与の支払いを求めることができます。
バックペイの金額
バックペイの金額は解雇処分を受けた時から解決する時までの期間の給与に当たる金額です。
解雇の問題が解決するまでの間、労働者は仕事をしたくてもできない状況が続きます。そのため、解決までの期間に相当する賃金がパックペイとして支払われることになります。
解決金の負担
解雇が無効となれば、使用者は労働者に対して、解決金とは別に解決金を支払う場合があります。
解雇が無効となれば、労働者は職場に復帰することができます。
しかし、一旦懲戒解雇をしたことで、労使間の信頼関係はかなり崩れています。また、解雇したことが事実上社内で周知されている場合、解雇した労働者が復職することは混乱を招きます。
そこで、使用者としては、雇用契約を合意解約するために、解決金名目の負担を強いられることがあります。
ただ、解決金の支払いは、労働訴訟の手続きで負担するケースが多い傾向です。また、その金額は給与の半年分から1年に相当する金額となり、解雇の違法性の程度に応じて決められます。
解決までに時間・労力・費用がかかる
解雇の効力が争われると、解決までに時間だけでなく、これに対応する労力や弁護士費用等の費用負担が生じます。
懲戒解雇が争われる場合、交渉による解決であっても3か月前後の期間を要します。多くの事案では労使間の対立が強くなるため、交渉が頓挫しがちです。
交渉が頓挫すれば、労働審判又は労働訴訟の手続きに移行します。
労働審判は比較的早期解決できる手続きです。そうといっても、労働審判は申立から解決まで3か月から6か月ほどの時間を要します。
また、労働訴訟を提起する場合には、最低でも1年間の時間を要します。裁判上の和解による解決ができない場合には、さらに時間を要します。控訴や上告にまで至れば2年以上の期間を要します。
当然、これらの手続きに対応するためには、使用者側にもかなりの労力を求められます。さらには、弁護士費用の負担も生じます。
評判が落ちる
使用者の社会的な評価が低下するリスクもあります。
無茶な理由で解雇を強行すると、解雇処分を受けた労働者やその関係者が、SNSや掲示板等で使用者の悪評を拡散することがあります。一度このような悪評が発信されると、瞬く間に情報が拡散されます。
これにより使用者の社会的な評価が毀損されるおそれがあります。
社員の離職を招き採用が難しくなる
その他の社員の離職を招くとともに、新たな人材の採用も難しくなります。
使用者の社会的な評価が低下すると、在籍する社員のモチベーションが低下します。また、新たな人材の採用も困難になり、人材の補充もできなくなります。これに伴い、社員1人あたりの業務負荷が大きくなります。
これらの負の循環により既存の社員の離職を招くおそれがあります。
残業代の請求を受ける
解雇無効の主張とともに残業代の請求を受ける可能性もあります。
本来、使用者は残業代を支払う義務を負います。残業代を支払わずに長年放置されており、労働者もそれを問題視していない、あるいは、諦めているケースも多くあります。そのため、使用者が残業代の支払いを事実上免れていることがあります。
しかし、解雇無効の問題を弁護士等の専門家に相談することで、残業代の未払いの問題が表に出ます。
使用者は、残業代だけでなく遅延損害金を負担します。それだけでなく、付加金の負担をする場合もあり、使用者の経済的な負担はかなり大きくなります。
助成金の利用が制限される
懲戒解雇をすることで、助成金を利用することができなくなることがあります。
助成金の多くは、事業主が労働者を解雇していないことを条件としています。そのため、労働者を懲戒解雇することで、助成金の受給が一定期間制限されてしまいます。
解雇を含めた事業主都合による離職を一定期間していないことを要件とする助成金は次のとおりです。
- 雇用調整助成金(出向の場合)
- 産業雇用安定助成金
- 労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)
- 中途採用等支援助成金
- 特定求職者雇用開発助成金
- トライアル雇用助成金
- 地域雇用開発助成金
- 障害者者福祉施設設置等助成金
- 通年雇用助成金
- キャリアアップ助成金(正社員化コース、障害者正社員化コース)
- 人材開発支援助成金
懲戒解雇の会社側のメリット
懲戒解雇にもいくつかのメリットはあります。問題行為を放置せずに問題社員を解雇するべきケースもあります。
一方的に労働契約を終了できる
労働者の承諾なく一方的に労働契約を終了させることができます。
雇用契約も契約の一つですから、本来、使用者の一方的な判断で契約を終了させることはできません。しかし、解雇とするべき懲戒事由がある場合には、労働者を解雇することで労働者の承諾なく契約を終了させることができます。
企業内の秩序を維持できる
懲戒解雇をすることで、企業内の秩序を維持することができます。
問題行為があったにもかかわらず、これを放置すれば、社内で問題行為が蔓延します。社内の就労環境の悪化にも繋がります。
問題行為を行った社員に対して懲戒解雇とすることで、問題行為に対する使用者の考えを社内に示し、問題行為の再発を防止させます。
他の社員のモチベーションを維持できる
他の社員のモチベーションを維持することができます。
問題行為を行った問題社員を解雇することで、パワハラ、セクハラ、横領等の問題行為の予防をします。問題行為に対する厳しい対応を示すことで、社内の就労環境も改善されるでしょう。
ただ、あまりにも厳しい対応をしすぎると、解雇が無効になったり、かえって就労環境が悪化することもあるため、注意が必要です。
懲戒解雇のデメリットを軽減するためには
懲戒解雇が無効となることで生じるデメリットを軽減させる方法がいくつかあります。
退職勧奨する
いきなり解雇とするのではなく、まずは退職勧奨します。
退職勧奨とは、使用者が労働者に対して自主退職するように促すことです。退職勧奨による退職は解雇ではないため、解雇無効に伴う負担が生じません。
ただ、行き過ぎた退職勧奨を行うことで、退職強要になってしまうと、解雇無効と同様の負担が生じるため注意が必要です。
諭旨解雇する
懲戒解雇の前に諭旨解雇をすることもあります。
諭旨解雇とは、一定期間内の自主退職をするように勧告しますが、期間内に退職しない場合には懲戒解雇とする処分です。
諭旨解雇は懲戒処分の一つではありますが、懲戒解雇よりも若干軽い処分です。
自主退職を促す点で退職勧奨と類似しますが、諭旨解雇は懲戒処分である点で退職勧奨とは異なります。
懲戒事由を裏付ける証拠を確保するで
懲戒解雇が有効となるためには、懲戒事由を裏付ける客観的な証拠が非常に重要です。
労働者が懲戒事由にあたる問題行為を行ったことを事後的に証明しなければなりません。
主観的に態度が悪い、能力が低い、協調性がないといった理由で解雇をすると、解雇は無効になります。
客観的に懲戒事由が存在すること、懲戒解雇とすることが重すぎないことを説明できる証拠を確保します。具体的には、業務日報、タイムカード、指示書、反省文、過去の懲戒処分通知書、面談記録等が挙げられます。
改善や教育の機会を十分に与える
犯罪行為や重大な問題行為のケースであれば別ですが、これに至らない問題行為であれば、まずは軽微な懲戒処分を行い、改善の機会を与えます。定期的な面談を実施することで、再発の防止を図ります。
それでもなお、問題行為を繰り返し、改善の余地が認められない場合に懲戒解雇に踏み切ります。
弁明の機会を与える
懲戒解雇をするにあたっては、労働者に対して弁明の機会を与える必要があります。
懲戒解雇は、雇用契約を一方的に終了させる重大な処分であり、労働者に及ぼす影響は非常に大きいものです。
そのため、懲戒処分をする場合には、労働者に対して処分を告知した上で、言い分を述べる機会を与えなければなりません。
また、就業規則上、弁明の機会のほか、賞罰委員会の開催などを手続的な要件として規定している場合には、これらをしっかりと履践することが求められます。
懲戒解雇の問題は弁護士に相談を
問題社員を勢い余って懲戒解雇にしてしまうことはよくあります。しかし、昨今の労働者の権利意識は非常に高く、インターネットを通じて労働法の情報を得て、労働法に精通した弁護士に相談することはとても容易いことになっています。そのため、安易に懲戒解雇とすると、労働者の代理人を通じて解雇の無効を主張されるとともに、過大な経済的な負担を求められることもしばしばです。
問題社員の対応には、計画的に進めることが重要です。事前に弁護士に相談することを強く推奨します。
当事務所では初回相談30分を無料で実施しています。面談方法は、ご来所、zoom等、お電話による方法でお受けしています。お気軽にご相談ください。対応地域は、難波、大阪市、大阪府全域、奈良県、和歌山県、その他関西エリアとなっています。