問題行為を行った社員に対して、会社の企業秩序を維持するために、何らかの懲戒処分を検討しなければなりません。
今回は、懲戒処分の一つである戒告処分について解説します。
戒告の意味
戒告(かいこく)とは、問題行為を行った労働者を口頭または書面で叱責し戒めるものです。
戒告処分も懲戒処分の一つです。
戒告処分は、懲戒処分の中でも最も軽微な処分で、経済的な不利益を伴わない処分です。
そのため、懲戒処分の中では、戒告処分は最も軽微な処分に位置付けられます。
戒告のほか、一般的な懲戒処分として、譴責、減給、出勤停止(停職)、懲戒解雇が挙げられます。
企業によっては、諭旨解雇や諭旨退職を懲戒処分として定めていることもあります。
訓告との違い
訓告とは、問題行為を行った従業員に対する厳重注意です。
訓告は、戒告よりも軽い処分の位置付けです。
ただ、訓告は懲戒処分ではない処分とされることも多く、懲戒処分とされる戒告とは異なります。
譴責処分との違い
譴責(けんせき)は始末書を提出させて将来を戒める懲戒処分です。
将来を戒める懲戒処分である点で譴責と共通していますが、戒告は始末書の提出を求めない点で異なります。
公務員の場合
公務員であっても、問題行為を行えば、懲戒処分を受けることに変わりはありません。
公務員の場合、地方公務員法や国家公務員法によって懲戒処分に関する規定が定められています。
民間企業と同様、懲戒処分の中でも戒告は最も軽微な懲戒処分として位置づけられています。
戒告の対象となる行為
戒告処分も懲戒処分です。そのため、戒告処分とするためには、就業規則に定められた非違行為があることが必要です。
ただ、戒告処分は、懲戒処分の中でも軽微な処分ですから、戒告の対象も、違法性の小さい、悪質性の低い行為となります。
戒告処分の事例
戒告処分の対象となる非違行為の例は以下のとおりです。以下の例もケースバイケースですので、会社が受ける不利益や労働者の処分歴によって処分内容は変わります。
- 業務命令に違反する
- 複数回の遅刻や無断欠勤
- 虚偽の申請をして休暇を取得
- 他の職員に対する暴言やパワハラ
- 就業時間中に職場から抜け出した
- 社内の手続きを取らずに兼業副業を行った
- 職場のパソコンを私的利用した
- 社外で会社批判のビラを配布する
戒告を行うためには
戒告処分するためには、就業規則の根拠規定があることに加えて、戒告処分を行うだけの非違行為が存在するとともに、懲戒処分を行う適正なプロセスを経ていることが必要です。
戒告処分が軽微な処分であったとしても、全くの無制約というわけではありません。
労働契約法第15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は,無効とする。
就業規則の根拠規定が必要
軽微な懲戒処分といえども、処分の内容や処分の対象となる行為が就業規則や雇用契約書に具体的に規定されていることが必要です。
どのような行為を行えば、どのような処分を受けるのかをあらかじめ明確にしておくことで、労働者に予測可能性を与えることが必要となります。
就業規則が周知されていること
就業規則に戒告処分とするための根拠規定が定められていたとしても、就業規則が従業員に周知されていなければ、就業規則は従業員との関係で効力を生じさせません。
従業員がいつでも就業規則の内容を確認できるように周知しておくことが重要です。
就業規則の周知方法
①事業所のみやすい場所へ掲示する、又は備え付ける
②就業規則を交付する
③磁気ディスク等に記録し、作業場に常時確認できる機器を設置する
問題行為が懲戒事由にあてはまること
問題社員の行為が懲戒事由に当てはまることが必要です。
いくら戒告が軽微な処分といえども、あらかじめ規定された懲戒事由に該当しない行為を理由に懲戒処分とすることはできません。
戒告を行うための手順
懲戒処分は、会社による一方的な処分ですから、懲戒処分をするにあたっては、適正な手続きを踏む必要があります。
就業規則において、戒告処分に関する手続きが規定されている場合には、これを経る必要があります。
戒告処分は最も軽微な懲戒処分ですから、厳格なプロセスまでは求められませんが、従業員本人に弁明する機会は与えておくべきでしょう。
戒告処分の通知をする
戒告処分をする場合には、労働者本人に対して、書面により処分の通知をします。
戒告処分は口頭でも行うことはできます。
しかし、口頭でおこなってしまうと、処分内容や理由が記録に残りません。
そこで、戒告処分を行う際には、口頭ではなく文書により行うようにします。
戒告処分の通知書には、処分の内容と処分の理由を具体的に記載します。
懲戒処分の一般的なルール
懲戒処分を行うにあたって、守るべきルールがあります。
戒告処分といえども、懲戒処分の一般的なルールに反すれば、無効な処分となります。
二重処分の禁止(一事不再理)
たとえ戒告が軽い処分であるからといって、同じ行為を理由に再度懲戒処分に付すことはできません。
例えば、遅刻欠勤を理由に戒告処分にしたものの、従業員が反省の色を見せないため、減給処分とすることは、許されません。
過去の行為は処分できない
就業規則で懲戒処分の種類や懲戒事由が規定される以前の行為を理由に、遡って懲戒処分を行うことはできません。
これを不遡及の原則といいます。
戒告処分が無効となる場合
戒告処分は、従業員への影響がそれほど大きくない軽微な処分ですから、戒告処分は会社に裁量の範囲内の有効な処分とされることが多いでしょう。
そのため、戒告処分が無効となるケースは限られています。
無効となるケースとして想定されるものは以下のような事情です。
① 就業規則において、懲戒事由や懲戒処分に関する規定が一切存在しないにもかかわらず、懲戒処分をする場合
② 懲戒処分の対象となる問題行為が存在しないにもかかわらず、これを存在するものとして一方的に懲戒処分を下した場合
③ 過去に懲戒処分となった問題行為を理由に繰り返し懲戒処分とした場合
戒告処分等の懲戒処分が無効となる場合には、労働審判や訴訟手続きを通じて、懲戒処分の無効の確認や損害賠償請求を受ける可能性があります。
戒告処分の有効性が争われた事案
戒告処分の有効性は争われた裁判例を紹介します。いずれの裁判例も戒告処分を有効としています。
大阪地方裁判所判決令和3年7月16日
【事案】
労働者が女性スタッフに対して、セクシャルハラスメントに該当する発言を複数回にわたり行ったことを理由に、使用者が労働者に対して行った戒告処分の有効性が問題となりました。
【判断】
裁判所は、労働者の言動が、懲戒事由に該当すること、使用者は、最も軽い処分である戒告処分を選択したこと、労働者の発言に関して注意を受けたにもかかわらず、その後も同種の発言を繰り返したこと等を踏まえれば、使用者に裁量権の逸脱濫用があったとも認められないため、本件戒告処分は有効であると判断しました。
東京地方裁判所令和2年6月10日
【事案】
労働者が短時間勤務の従業員に対して、業務終了後の時刻に業務報告を頻繁に求めていた行為がパワーハラスメントに該当することを理由に、使用者が労働者に対して戒告処分を行ったところ、この戒告処分が不法行為に該当するとして、使用者に対して損害賠償を求めた事案です。
【判断】
使用者は、複数回にわたり、短時間勤務の従業員や労働者本人に対する事情聴取を行っており、必要かつ公平な調査を行わなかったとはいえないこと、時間外の業務連絡があったとの事実のみを懲戒の対象とし、戒告処分を選択したことが重きに過ぎるともいえないことなどを理由に、使用者が懲戒権を濫用したとはいえず、戒告処分を有効としました。
東京地方裁判所判決平成24年10月9日
【事案】
児童養護施設を運営する会社が、5歳6か月の幼児の片手片足をつり上げ部屋に連れて行くなどの問題行為を行った従業員に対して戒告処分を行った上で、この戒告処分を理由に再雇用の拒否したため、前記従業員が、この戒告処分の無効を主張した事案です。
【判断】
- 従業員の問題行為は、児童に対して多大な身体的、精神的苦痛を与えること
- 過去にも子供の気持ちを十分汲み取れていない旨第三者委員に指摘されていること
- 約1か月前にも、他の入所児童に対する対応を巡って、東京都の子どもの権利擁護専門官の事情聴取を受けていたこと
- アルコール臭が残る状態で勤務しない旨を書面で約束しておきながら、改めることができず、さらに書面による注意を受けたことがあること、
- 戒告は被告において最も軽微な懲戒処分であること
などを踏まえれば、本件戒告処分には、客観的に見て合理的な理由があり、社会的に見ても相当であるというべきと判断しています。
戒告を受けた場合の従業員の影響
戒告処分それ自体によって、労働者には経済的な不利益は生じません。
しかし、戒告処分を受けた従業員には、さまざまな不利益が生じます。
考察や査定に影響
戒告処分を受けることで、賞与、昇給、昇格といった考査にマイナスの影響を与えます。
賞与、昇給、昇格といった人事考課は、会社の広い裁量が認められています。
そのため、過去の戒告処分を理由に、賞与の金額が減額されるなど従業員の人事考課の評価が悪くなる可能性はあります。
退職金の金額に影響する
退職金は、退職時の基本給をベースに計算されることが多いです。
戒告処分それ自体によって、退職金の全部又は一部が不支給となることはありません。
しかし、戒告処分を受けたことで、昇給や昇格が遅れ、基本給が低水準に留まってしまう場合があります。
基本給が低いと、これをベースとする退職金の金額も低くなります。
履歴書の賞罰欄に記載しなくてよい
履歴書の賞罰欄に戒告処分の履歴を記載する必要はありません。
履歴書の賞罰欄の『罰』とは、刑事罰を指しています。戒告処分をはじめとした懲戒処分は、民間企業によって下された処分であって刑事罰ではありません。
そのため、履歴書の賞罰欄に戒告処分を記載することは求められていません。
問題行為の予防策
戒告処分をした後に、問題社員を放置してはいけません。
より重大な問題行為を招かないように適切に管理するべきです。
業務日報を作成させる
業務日報の作成を指示します。
業務日報を作成することで、従業員が自身の問題行為の内容やその原因に気付く機会になります。
また、業務日報は従業員から会社に対する一方向的なものとするのではなく、従業員が作成した業務日報に対して、管理者からのメッセージも加えることで、双方向のコミュニケーションの機会にもなります。
定期的な面談を行う
管理者と従業員との間で、定期的に面談を行い、円滑なコミュニケーションを促します。
従業員の問題行為は、上司や同僚とのコミュニケーションの不足、会社に対する忠誠心の欠如に起因することが多くあります。
戒告処分をした後、漫然と放置するのではなく定期的に面談をするなどして、従業員とのコミュニケーションを図りましょう。
重い懲戒処分を行う
戒告処分をした後も、改善されることなく、同じ問題行為やさらに重大な問題行為を繰り返す場合には、戒告処分よりも重い減給や降格といった懲戒処分を検討しなくてはいけません。
従業員の問題行為を放置すると、他の従業員のモチベーションを下げたり、従業員や取引先から損害賠償を受けるリスクもあります。
問題社員に対しては、適切に対応しなければなりません。
問題社員の対応は弁護士に相談を
問題行為を行った従業員に対して、どのような処分を行うべきかは非常に悩ましい判断となります。
戒告処分後の従業員の管理も、心理的な負担が大きいため、思うように行えないのが現実です。
問題社員の適切な対応は早い時期に弁護士に相談しましょう。
まずはお気軽にご相談ください。当事務所では、中小企業診断士の資格も保有する弁護士が親身に対応します。
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