試用期間とは?試用期間満了時の本採用拒否やその流れを弁護士が解説します

公開日: 2023.09.12

採用面接や書類選考だけでは、新入社員が会社の求める人材であるかを判断することは、そう簡単ではありません。そこで、新入社員の能力や資質を確認するために、試用期間を設けることがあります。

試用期間を設けるためには、就業規則や雇用契約書に試用期間の内容や本採用拒否の事情を明記しておくことが必要です。その上で、本採用を拒否する場合には、本採用拒否の事情にあてはまる事情があるのかを精査しなければなりません。安易に本採用拒否をしてしまうと、権利濫用にあたり無効になるリスクがあります。

本記事では、試用期間の意味や本採用を拒否する条件を弁護士が解説します。

試用期間とは

試用期間とは、本採用の前に、従業員としての資質、適格を持っているかを判断するための試みのための雇用期間をいいます。

試用期間の期間

試用期間の期間は3か月とされることが最も多いでしょう。短い場合には1か月、長い場合には1年とされることもありますが、あまりにも不当に長い試用期間は、認められないこともあります。

試用期間を設けるためには

試用期間を設けるためには、就業規則や雇用契約書に試用期間に関する定めを設けなければなりません。これらの定めがないのに、使用者の判断で試用期間を設けることはできません。

試用期間の定めの内容

試用期間に関する定めは、その期間や使用期間の延長の可否について規定されます。また、試用期間の満了時に本採用を拒否する場合があることを定めるとともに、本採用を拒否する事情も列記します。例えば、出勤状態が悪い、勤務態度が悪い、能力不足といった事由です。

試用期間をなぜ設けるのか?

書類選考や採用面接だけでは、従業員としての資質・適性を判断することは難しいのが通常です。

はじめから本採用にしてしまうと、いざ就労を開始してみると、会社とマッチングしない事情が、ちらほらと出てくることはよくあることです。

しかし、本採用をした以上、そう簡単に雇用契約を終了させることはできません。例えば、解雇は重大な処分であるため、余程の重大な事情がない限り解雇を有効に行うことは難しいのが実際です。

そこで、試用期間を設けることで、従業員が、会社の業務を処理する能力を有しているか、会社の就労環境に適応できるか、コミュニケーション能力を持っているかなどの従業員としての適性を判断します。仮に面接時には分からなかった事情が分かれば、本採用を控えることになります。

本採用を拒否するためには

試用期間を通じて、社員の適性がないことが分かれば本採用を拒否することになります。

しかし、試用期間といっても、無制限に本採用を拒否できるわけではありません。

試用期間は解約権留保付の雇用契約

試用期間は、解約権留保付の雇用契約と考えられています(三菱樹脂事件・最高裁昭和48年12月12日)。

試用期間の性質や目的に照らして、本採用拒否については、本採用後の解雇ほどに緩やかにその有効性が判断されることになります。

本採用拒否するときの注意点

試用期間の終了時に、本採用を拒否する合理的な理由が客観的に認められることが必要です。その上で、本採用を拒否することで、労働者にとって酷ではない、重過ぎないことが必要です。

つまり、面接時に認識していなかったものの、試用期間を通じて、経歴詐称、勤務態度の不良、能力不足といった重大な問題点が明らかとなり、継続して雇用することが不適格と判断できれば、本採用拒否は認められます。

ポイントは、社員としての適格の欠如が、使用者側の主観(感想)によるものではなく、客観的な資料から認定できることが必要です。

さらに、試用期間満了時に、いきなり本採用拒否を告げるのではなく、あらかじめ問題点の改善のための教育の機会を与えるなど、適切なプロセスを踏んでいることが必要です。 

能力不足を理由とする本採用拒否

試用期間を通じて、見込んでいた能力が不足している場合に本採用を拒否することがあります。

新卒社員や若手社員

就労経験の浅い新卒社員や若手社員であれば、OJTや社内研修等を通じた計画的な教育が予定されています。そのため、新卒社員や若手社員については、能力不足を理由とした本採用の拒否は慎重になるべきでしょう。

中途採用社員

経験や能力を見込まれて、それに見合う賃金をもらっている中途採用社員の場合、既に教育を必要としない程の経験や能力を持っていることを前提としています。そのため、能力不足を解消するための教育指導を行うことは強く要請されません。

そこで、能力不足であることを証明するための客観的な資料を十分に揃えておくことが求められます。客観的な資料として、業務日報、クレーム報告書、議事録、面談記録、始末書、反省文、懲戒処分の通知書などがあります。

本採用拒否をするときの注意点

能力不足を理由に本採用をしない場合、次の点を注意しながら判断するべきです。

①採用時期に求められていた資質や能力

②①の能力・資質がどの程度欠如しているのか

③能力や資質の欠如が改善される可能性

キングスオート事件東京地裁平成27年10月9日

管理部の責任者として高い水準の能力を発揮することが求められて採用されたが、能力不足等を理由に試用期間中に解雇された事案。

しかし、十分な指導を受けたのに、単純作業を適切に行えないなど、基本的な業務遂行能力が乏しいこと、管理職としての適性に疑問を抱かせる態度もあったことを踏まえ、解雇は有効としました。  

ゴールドマンサックスジャパンホールディングス事件・東京地裁平成31年2月25日

即戦力として中途採用された社員が、試用期間満了に伴い解雇された事案です。

労働者の業務上のミスが、短期間の割に多いこと、度重なる指摘・注意、書面による警告にもかかわらず、状況を改善しようとせず、かえって、部長に対し度々大声で抗議するなどしており改善の見込みは乏しいといわざるをえないこと等を理由に契約の解約は有効と判断しました。

社労士法人パートナーズ事件福岡地裁平成25年9月19日

社労士としての実績のない初心者を試用期間の途中で能力不足を理由に解雇した事案です。

社労士としての実務経験が乏しく、能力が未熟であることを十分に認識して採用したことを踏まえて、解雇は無効と判断されました。

勤務態度の不良

遅刻早退や欠勤が多く、従業員としての適格を欠く場合に、試用期間満了時に本採用を見送ることがあります。

ただ、遅刻や欠勤の回数が少なかったり、体調不良や忌引きといった合理的な理由である場合には、勤務態度が不良であると判断するのことが難しいこともあります。

さらに、遅刻、早退、無断欠勤があっても、注意指導をするなどして、改善の機会を与えることが必要となります。

業務日報、タイムカード、給与明細、指導記録、面談記録などの客観的な資料から勤務態度の不良を証明します。

経歴詐称

履歴書やエントリーシートに記載した経歴に事実に反する記載がある場合に、本採用を拒否することがあります。

しかし、すべての虚偽記載が解約の理由となるものではありません。

履歴書等に記載するべき経歴には、学歴、職歴、犯罪歴、健康状態があります。これら全ての経歴が業務に関連するわけではありません。

社員に求められている能力や勤務成績に関係する経歴の詐称であれば、本採用拒否も認められる可能性があります。また、企業の社会的な信用や企業秩序に影響を及ぼす犯罪歴の詐称は、解約の理由になるでしょう。例えば、女性が多くいる職場で性犯罪の前科を隠していた場合や、営業職の社員が過去に詐欺罪で有罪判決を受けている場合などです。

他方で、業務や企業秩序に関連しない軽微な経歴詐称であれば、契約の解約は無効となる可能性があります。

試用期間中(満了前)の解雇

試用期間満了に伴う解約は、本採用後の解雇と比べると緩やかに判断されます。

しかし、試用期間の途中に解雇することは、試用期間満了時の解雇と比べると厳しく判断されます。

試用期間は、その全体を通じて労働者の能力や資質を見極める期間であって、労働者もそのような期待を持っているからです。

そのため、試用期間の満了を待たなくても、会社の求める水準に達しないことが明らかな場合に限り、試用期間の途中の解雇は認められます。

試用期間の長さ

試用期間の長さを定めた法令はありません。法令上、試用期間の長さに制約はありません。

実務上は3か月から6か月を試用期間と定めることが多いでしょう。

試用期間の長さを設定するにあたっては、試用期間から1か月をマイナスした期間で社員としての適格を判断するに十分かを検討します。試用期間の開始後14日を超えれば、30日前に解雇予告をしなければなりません。そのため、試用期間の満了時から1か月前の時点で解雇するべきかの判断に迫られるからです。

なお、公務員においては、条件付採用として、その期間は法律で6か月と規定されています(国家公務員法59条、地方公務員法22条)。

長期の試用期間は無効となる

試用期間は解約権が留保された期間であり、労働者にとって不安定な期間ともいえます。

そのため、1年を超えるような長期の試用期間は、公序良俗に反して無効とされる可能性があります。

1年を超える試用期間を設けなければ、社員の能力や適性を判断できないような合理的な理由を十分に説明できるかがポイントになります。

 

雇用契約書と就業規則の期間が一致しない

就業規則と雇用契約書に規定された試用期間の長さが異なる場合、短い方の使用期間が優先する可能性があります。

試用期間は労働者にとって不安定な期間です。使用期間が長ければ長いほどに労働者に不利益となります。

就業規則と労働契約書に定められた労働条件が一致しない場合、有利な条件が優先します。

そのため、就業規則が3か月、雇用契約書で6か月と定めていれば、試用期間は3か月となります。逆に、就業規則が6か月、雇用契約書で3か月と定められていても、試用期間は3か月となります。

試用期間の延長

当初定めた試用期間だけでは、従業員の適性を判断しきれないこともあります。その場合には、試用期間を延長・伸長させることがあります。

しかし、試用期間の延長は、使用者の裁量だけで行うことはできません。試用期間の延長をするためには、試用期間の延長を認める規定をあらかじめ定めておくことが必要です。

本採用拒否のプロセス・流れ

本採用を拒否するにあたり、試用期間の満了時に突然本採用を拒否することは避けるべきです。本採用の拒否も、労働者としての立場を奪う処分ですので、慎重な手続きが求められます。

本採用拒否できる事情があるか

就業規則や雇用契約書に本採用を拒否できる理由が定められていることが必要です。

その上で、対象の従業員に、本採用を拒否できる事情があるのかを、客観的な資料と照らし合わせながら検討します。

改善の機会を与える

試用期間中に、社員の能力や資質に疑念を持った場合、改善の機会を与えるべきです。

定期面談、OJT、社内研修等のOFFJT、業務日報の作成指示をするなどして、社員自身に問題点の自覚を促し、改善を目指します。

業務日報を作成する場合には、社員から会社への一方向の報告に留めるのではなく、上司や責任者から社員に対するメッセージも記載するなど、双方向のコミュニケーションとして利用するようにします。

OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、業務に必要となる知識や能力を、先輩社員や上司が実務を通じた指導により身につける教育方法です。

OFFJT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、職場から離れて社員研修、講座、eラーニングにより業務に必要な知識や能力を身に付ける教育方法です。

退職勧奨をする

改善の機会を付与したものの、改善の兆しがなければ、本採用拒否を選択することになります。

ただ、いきなり本採用拒否をすると、労働者からの強い反発を招くおそれがあります。そこで、試用期間満了の30日以上前に、本採用できない具体的な理由を説明し、本採用を拒否する使用者側の方針を伝えます。その上で、従業員の自主退職を促します。

解雇予告をする

試本採用拒否においても、試用期間満了時の30日以上前に解雇予告をしなければなりません。

試用期間が14日を経過していない場合には,解雇予告の必要はありません。他方で,14日以上の場合には30日分の平均賃金を支払わなければ即時解雇することはできません。

解雇予告手当の有無

使用者が労働者を解雇する場合には、30日以上前に予告しなければなりません。あるいは、即時解雇するような場合には、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。試用期間中でも、14日以上勤務している場合には、解雇予告手当を支払う必要があります

解雇予告手当の有無

試用期間の満了を待たずに即時に本採用拒否をする場合には、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。

ただ、試用期間途中の解雇については、厳格に判断されます。そのため、試用期間途中の本採用拒否は、試用期間の満了を待つ必要がない程に重大な懲戒事由がある場合に限るべきでしょう。

本採用拒否の通知をする

試用期間が満了すれば、使用者は社員に対して、本採用拒否を通知します。

本採用拒否には、本採用を拒否することに加えて、試用期間の満了した日付、本採用を拒否する理由を記載します。

本採用拒否が無効となる場合のリスク

本採用拒否に、合理的な理由がない場合には、本採用拒否による雇用契約の解雇は無効となります。

本採用拒否が無効となれば、雇用契約が存続していることになります。

この場合、たとえ労働者が出勤をしていなかったとしても、使用者は労働者に対して、本採用拒否の時から解決するまでの給与を支払う義務を負います。

また、雇用契約を合意解約して、労働者の復職を避けるため、使用者が労働者に対して解決金を支払う必要が生じる場合もあります。

本採用拒否できるだけの十分な理由がないのに、軽率に本採用を拒否することは避けるべきでしょう。

試用期間の問題は弁護士に相談を

試用期間だから、簡単に解雇できると勘違いをして、十分な理由もなく本採用を拒否してしまいがちです。

本採用後の解雇ほどに厳格ではないと一般的には言われていますが、制約なく一方的に本採用を拒否できるわけではありません。 

また、試用期間や本採用拒否の事情等もあらかじめ就業規則や契約書に適切に定めておくことも必要です。