降格処分とは?降格人事が違法となる場合や通知書の内容を解説します

公開日: 2023.06.14

降格処分は、給与額等の引下げを伴うことが多いため、賃金の減額を伴う降格処分は安易に行うべきではありません。

本記事では。降格処分が有効となる条件を事例を紹介しながら解説します。

降格処分とは

「降格」とは、資格や等級を引き下げる処分をいいます。

降格には、懲戒処分としての降格と人事権行使としての降格があり、それぞれ異なる性質の処分であるため、処分を行うにあたっての注意点も異なります。

賃金が資格や等級と連動している場合には、降格処分に伴って賃金額も引き下げられるのが一般的です。

懲戒処分の降格と人事権行使の降格との違い

人事権としての降格は、懲戒処分ではなく、使用者に与えられた人事権を根拠とします。社員の能力不足や配置上の問題として行われることが一般的です。

懲戒処分とは、問題行為を行なった社員に対する制裁です。

他方で、降格人事は、制裁ではなくあくまでも会社の人事権の一環として行うものです。そのため、懲戒処分の降格よりも広い裁量の下で認められています。

降格に伴う給与の引き下げと減給の違い

減給は、労働者に対して支払う給与から一定額を差し引く懲戒処分の一つです。

減給できる範囲にも制限があり、いくらでも減給できるわけではありません。

減給の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一回の賃金の総額の10分の1を超えてはいかないと定められています。

降格に伴う賃金の引き下げは、降格によって役職や職員が引き下げられることに伴い、これに紐作り賃金も引き下げられるものですので、減給とは異なります。そのため、減給の上記のルールは降格の場合には適用されません。

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懲戒処分としての降格処分を行う際の注意点

懲戒処分としての降格処分を行う場合には、その他の懲戒処分と同様に、一定のルールに沿って行う必要があります。

①就業規則に定められていること

②就業規則が周知されていること

③就業規則に規定された懲戒事由に該当する事実があること

④懲戒権の濫用にあたらないこと

⑤手続きを踏むこと

①就業規則の定め

懲戒処分として降格をする場合には、就業規則に懲戒処分の対象となる懲戒事由と懲戒処分として降格処分が定められていることが必要です。

そのため、労働者による行為後に作成された就業規則に基づく懲戒処分は許されません。

②就業規則が周知されていること

就業規則が作成され、これが労働基準監督署に届出されていたとしても、労働者に周知されていなければ就業規則は効力を生じません。

就業規則の写しを社員に交付したり、誰でも手に取れる場所で保管し、保管場所を社員に対して周知させておくことが必要です。

③懲戒事由に該当すること

社員の問題行為が懲戒事由に該当することが必要です。

懲戒事由に該当するといえるためには、社員の問題行為の存在が客観的な証拠等から認定できることが必要です。主観的に問題行為が存在するだけでは不十分です。懲戒処分をした後に発覚、認識した事情をもって懲戒事由を補完させることはできません。

④懲戒権の濫用に当たらないこと

労働契約法15条に、労働者に対する懲戒処分は、客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることが必要と定められています。

社員の問題行為が懲戒事由に該当するだけでなく、これを理由に降格処分とすることが社会通念上相当と言えることが必要です。

下記の事情を考慮して降格処分が重過ぎないことが求められます。

⑴行為の動機、態様及び結果

⑵故意又は過失の度合い

⑶行為を行った職員の地位や責任の程度

⑷他の職員に与える影響

⑸過去の処分歴

⑹普段の就労態度

(労働契約法)

第15条使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は,無効とする。

⑤手続きを踏むこと

懲戒処分は社員に対する不利益な処分です。特に降格処分は、賃金の引き下げを伴うのが一般的であり、一回きりの他の懲戒処分と比べれば重大な処分です。

そのため、降格の懲戒処分を行う場合には、社員本人に対して弁明の機会を与えるなどして、手続きの適正に行うように努めます。

女子大学院生がマンションの一室に、大学教授が一晩滞在し、女子学生の胸を触るなどの行為に及び、後日教授がメールを繰り返し送信し、食事に誘った行為について、5年間の准教授への降格処分が有効であると認められた事例(東京高判令元年6月26日)

役職や職位を引き下げる降格

人事権の一環として、役職や職位を引き下げる降格が有効となるためには、以下の条件を満たすことが必要です。

①就業規則の根拠規定または労働者本人の同意

②人事権の濫用にあたらないこと

①就業規則の定め

人事権の行使としての降格は、会社の裁量により行うことができます。

そのため、降格させるための人事権を行使には、本来は就業規則の定めは不要と考えられています。

しかし、降格、特に賃金の引き下げを伴う降格は、労働者に大きな不利益を与えます。

そのため、たとえ人事権行使といえども、就業規則に根拠となる規定を設けておくべきでしょう。

②人事権の濫用に当たらないこと

人事権の行使も無制限ではありません。

⁃ 業務上の必要性の有無

⁃ 労働者側の責任の有無程度(能力不足、適正欠如)

⁃ 労働者の受ける不利益の内容や程度

を総合的に考慮します。

降格に伴い役職手当等が剥奪される場合には、その点も降格の有効性を判断する材料となります。

また、退職勧奨に応じないことの制裁として降格をする場合、不当な動機や目的に基づくものとして、無効になる可能性があります。

ブランドダイアログ事件・東京地判平成24・8・28)

役職手当5万円の減額を伴う降格を無効と判断した事例

ブーランジェリーエリックカイザージャポン事件・東京地判平26・1・14

剥奪される職務手当と職能給の合計額が22万2000円に上るというだけで裁量を逸脱したとはいえないとする事例

アメリカンスクール事件=東京地判平13.8.31

施設管理部長地位を利用して私利を図りリベート分の代金上乗せ分の損害を使用者に与えたことなどを理由とする降格(2ランク降格、月額賃金が約4万円低下)を有効としました

スリムビューティーハウス事件、東京地判平成20.2.29

複数の従業員から言動について不満が寄せられていた社員を5ランクダウンの降格処分、降格にともなう賃金減額(年俸1,150万円から690万円)が行われた事案において、減額基準の客観性合理性が明らかでないこと、年俸の4割を超える金額にわたる減額であって極端であることを理由に、本件降格にともなう減額としては過大に過ぎるとして無効と判断されました。

資格・等級の引下げによる降格

会社が、賃金制度として職能資格制度や職務等級制度を採用している場合に、資格や等級を引き下げる降格を行うことができます。

しかし、資格等級の引き下げも自由に行えるわけではありません。

①就業規則の定め又は本人の同意

②人事権の濫用に当たらないこと

①就業規則の根拠

資格等級の降格は最も重要な労働条件である賃金の減額につながるものです。そのため、就業規則には、具体的な降格事由、降格の幅、減額する賃金の幅などの具体的な内容が就業規則に規定されていることが必要です。単に、「降格降給があり得る」と定めるだけでは不十分です。

アーク証券事件=東京地決平8.12.11

就業規則等における職能資格制度の定めにおいて,資格等級の見直しによる降格・降給の可能性が予定され,使用者にその権限が根拠付けられていることが必要である」と判断しました。

CFJ合同会社事件大阪地判平成25・2・1

給与規程において『基本給(部長職以上は月例給)は,JobGrade別に月額で定める。』と定めるだけでは足りず,具体的な金額やその幅,適用基準を明らかにすべきである」と判断しました。

②人事権の濫用

資格等級を引き下げる降格も、使用者の人事権を濫用して行われた場合には無効となります。

しかし、資格や等級の引き下げは、賃金の減額に直結し、労働者の不利益は大きいため、有効性は厳格に判断されます。

不利益取扱いにならないように

妊娠出産、育児を理由に、社員を降格させると法令違反となり無効となります。

男女雇用機会均等法9条3項では、「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」が定められています。

育児・介護休業法においても、「育児休業等を理由とする不利益取扱いの禁止」が定められています。

妊娠出産、育児休業等が終わってから1年以内に降格などの不利益な取扱いをすると、原則として法令違反になります。

業務上の必要がある場合

降格が妊娠出産等の不利益取扱いに形式上該当したとしても、業務上の必要から行われたもので、社員が受ける不利益を上回る事情が認められる場合には、例外的に法令違反とはなりません。

例えば、経営悪化による組織再編や妊娠出産前の能力不足を理由とする場合が、これにあたる可能性があります。

社員本人の同意がある場合

たとえ不利益な取扱いであったとしても、降格について社員本人の同意があった場合には、例外的に法令違反となりません。

しかし、社員本人が形式的に同意さえすれば十分というわけではありません。

会社が社員に対して、説明の機会を複数回設けて、降格に伴う不利益を具体的に説明する、質問を受け付ける、回答までの期間の猶予を設ける、書面による同意を求めるといった慎重なプロセスを経ていなければ、不利益取扱いについて同意をしたと認められることはありません。

降格処分の通知書を交付する

降格処分を行う場合には、口頭ではなく書面によって行います。

降格処分は、口頭によっても通知することは可能です。しかし、口頭だけでは、どのような根拠でどのような降格処分をされたかが判然としません。処分後に処分内容を証明することも難しくなります。

そのため、降格処分を行う場合には、通知書を交付する方法で行います。

降格処分が懲戒処分なのか人事権の行使なのかを明確にしたうえで、これに応じた具体的な内容を明記します。

懲戒処分であれば、対象行為を具体的に特定した上で、懲戒事由と懲戒処分の就業規則上の根拠を記載します。

人事権の行使としての降格処分であれば、人事権の行使としての降格であること、変更前後の職位の内容や変更前後の役職手当の金額を具体的に記載します。

降格処分の問題は弁護士に相談を

降格処分は、賃金の引下げを伴う重大な処分です。そのため、労働者からの反発も強く出るケースが多くあります。降格処分を行う際には、降格処分を行うに足りる十分な理由があるか、労働者に生じる不利益が過酷ではないかを、あらかじめ精査するべきでしょう。

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