雇止めが無効になる条件とは?雇止め法理と注意するべき点を解説

更新日: 2024.08.05

期限の定めがある雇用契約は、期間満了により終了させることができます。これを雇い止めといいます。雇い止めは、原則として認められますが、常に有期契約の雇止めが認められてしまうと、労働者の立場を不安定にさせてしまいます。そのため、雇止めが無効となるケースも存在します。雇止めが無効とならないよう、雇止めの条件や注意点を理解しておくことが重要です。

本記事では、雇止めが無効になる条件や雇止め法理について詳しく解説し、企業や従業員が注意するべきポイントを明らかにします。

雇止めとは?

雇止めとは、雇用期間の定めのある労働契約(有期雇用契約)の期間満了に際し、使用者が契約の更新を拒否することをいいます。

有期雇用契約には、アルバイト、契約社員、嘱託社員等の名称を問わず、期間の定めがある雇用契約は全て含まれます。時給制や月給制のいずれであっても同様です。

あらかじめ定めた契約期間の到来をもって、労働契約を更新せずに終了させることを雇止めと呼んでいます。

解雇との違い

解雇と雇止めは、これを行うシチュエーションが異なるだけでなく、有効となる条件も異なります。

解雇とは、雇用期間のあるなしに関係なく、使用者側が、労働者との雇用契約を一方的に終了させる処分です。解雇処分には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇があります。

雇止めは、契約期間の満了により契約を終了させるものです。一方、解雇は、整理解雇を除き、社員の非違行為や能力不足等の債務不履行を理由として雇用契約を終了させる処分です。

雇止めであれば、契約更新の合理的な期待がない場合及び無期雇用契約と同じといえる場合でなければ、明確な理由がなくても契約を終了させることができます。他方で、解雇は、使用者により労働者としての地位を奪う一方的な処分となるため、解雇が有効となるためには、厳格な条件を満たすことが必要となります。

雇用期間中の雇用契約の終了

雇用期間中に雇用契約を終了させるためには、「やむを得ない事由」が必要です。

あくまでも、雇止めは、契約期間の満了時に労働契約を終了させるものです。

そのため、契約期間中に労働契約を終了させる行為は、雇止めではなく解雇に当たります。その上、有期契約の期間満了前の解雇は、「やむを得

ない事由がある場合」でない限り解雇できません(労契法17条1項)。

「やむを得ない事由」とは、契約期間の満了を待たずに、期間中に終了せざるを得ない程に特別な重大な事由をいいます。

雇止めのメリットとデメリット

雇止めのメリットとデメリットについて詳しく解説します。

使用者側のメリット・デメリット

雇止めには使用者側にとってのメリットとデメリットがあります。

メリットとしては、契約期間満了により社員の意向に関わらず雇用契約を終了させることができる点で、使用者側としては、労働力の調整や人件費の管理を行いやすい点にあります。

他方で、デメリットとして、労働契約法19条で規定する条件に当てはまる場合には、雇止めが無効となり、解決時までの給与相当額や解決金などの経済的負担を負わざるを得なくなるリスクがあります。また、雇止めを乱発させることで、他の有期雇用の社員のモチベーションが低下して業務効率が悪化するおそれもあります。

従業員側のメリット・デメリット

従業員側においても雇止めには、メリットとデメリットがあります。

メリットとしては、事業主都合による離職となるため、短期間の待機期間を経て失業給付金を受け取ることができます。

しかしながら、使用者側の都合で契約を終了されることで、生活を不安定にさせたり、転職活動を余儀なくされるなど、労働者側はメリット以上のデメリットを受けることが考えられます。

雇止めの法令上のルール

雇止めも無制限に行えるわけではありません。雇止めが労働者に及ぼす影響があることから、一定程度のルールが設けられています。

以下では、雇止めに関する法令上のルールを紹介します。

民法のルール

民法には、以下のような規定があります。

第629条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場 合において、 使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用 と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。

つまり、雇用期間が終わった後も、労働者が職場に残って仕事をしているにもかかわらず、使用者がこれに異議を述べないときは雇用契約が更新されるという内容です。

しかし、民法629条だけでは、有期労働者の地位が不安定になるため、労働契約法により雇止めのルールが厳格化されています。

労働契約法上のルール

労働契約法上には、雇止めに関する具体的なルールが定められています。

労働契約法19条には1号と2号が定められており、これらに当てはまる場合には、雇止めに客観的に合理的な理由を欠き、社会一般からみて相当とは言えない場合には、契約が更新されたものとみなされます。

1号は、反復して更新されたことで無期の雇用契約と同視できる場合を想定しています。2号は、契約が更新されると期待することに合理的な理由がある場合を想定しています。

(有期労働契約の更新等)第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

雇止めが無効となる3つの条件

雇止めは、以下で紹介する3つの条件を満たす場合に無効となります。

雇止めが無効となる条件を十分に理解し、それらに注意を払うことが求められます。

更新の申し込みがあること

雇止めが無効になるためには、従業員から更新の申し込みがあることが必要です。

有期契約の労働者が、雇用契約の更新を望まない場合にまで、雇止めを無効にする必要はありません。そのため、労働者が、期間満了日までに更新の申込みをしたこと、または、期間満了後遅滞なく契約の申込みをしたことが必要となります。

ただ、使用者による雇止めの通知に対して、何らかの反対の意思表示がされれば足りるとされています。

労働契約法19条の各号に該当すること

労働契約法19条に定めるケースに該当する場合、雇止めに合理的な理由と社会一般の相当性が求められます。

19条1号と2号に該当するかの判断は次の事情を総合的に考慮します。

  • 業務内容の臨時性・常用性
  • 更新の回数や雇用期間
  • 更新手続の有無や杜撰さ
  • 更新を期待させる使用者の言動

雇止めを行う際には、これらの事情を総合的に考慮し、適切な手続きを踏むことが重要です。

客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当ではないこと

労働契約法19条の1号と2号に当てはまる場合、解雇権濫用法理と同様、雇止めに客観的合理的理由があること、社会一般の相当性があることが必要となります。

解雇の事案と比べて、雇止めにおける客観的合理的理由と社会通念上の相当性の程度については緩やかでよいとする裁判例もあります。

無期契約の解雇と変わらない状態

無期の雇用契約と変わらない状態とは、更新が反復継続して行われたことで、有期契約の雇止めが無期労働契約を解雇により終了させることと社会通念上同視できると認められる場合をいいます。

具体的には、以下のポイントが無期雇用契約と変わらない状態を示す要素となります。

  • 更新の回数
  • 更新手続の有無
  • 雇用契約書の有無
  • 他の労働者の更新状態

更新の回数

契約の更新回数が多いほど、雇止めが無効になる可能性が高まります。

しかし、更新の回数が多いだけで当然に無期契約と同視できると判断されるわけではありません。

更新回数に加えて、更新手続きの状況等も踏まえて判断されます。

更新手続の形骸化

更新手続が形骸化している場合には、19条1号の該当性が認められる可能性があります。

更新に際して、面接を行われなかったり、仮に面接をしたとしても雇用契約書にサインをするだけである場合には、更新手続きが形骸化していると判断される可能性があります。

他方で、更新の都度、面接を行い、更新の希望を確認した上で、新たな雇用契約書を作成している場合、契約更新手続きは形骸化されているとまではいえません。

雇用契約書の作成の有無

雇用契約書の作成がない場合、更新手続それ自体も存在していないと推任され、無期契約と同視される可能性があります。

他方で、契約書や辞令などの書類が更新時に作成されている場合には、更新手続きを行なって更新しているものと判断されます。

更新の期待が合理的である場合

契約が更新されると期待することに合理的な理由がある場合、雇止めが無効となる可能性があります。

更新の期待が合理的といえるかは、以下の事情を基に判断します。

  • 使用者の更新に関する言動
  • 業務内容の重要性
  • 不更新条項の有無
  • 更新の上限規定の有無

使用者の言動

使用者の言動は、従業員に対して契約の更新を期待させる要因となることがあります。

例えば、「長く勤務してほしい」、「5年の

契約満了時には正社員になれる」、「健康で成績がよければいつまでもいられる」など、長期雇用を期待させる言動が繰り返されていた場合には、更新の期待に合理的な理由があるといえます。言動だけでなく、事業計画書や就業規則の内容から、更新の期待に合理的な理由があるかを判断することもあります。

業務内容が基幹的・恒常的か

業務内容が基幹的・恒常的である場合、契約の更新が期待されやすくなります。

つまり、業務内容が一時的臨時的なものではなく、使用者にとって基幹的な業務で不可欠な役割を担っている場合には、契約更新への期待について合理的な理由があるといえます。

不更新条項

不更新条項とは、契約を更新しない旨を明示的に取り決めた条項です。

不更新条項が定められている場合には、契約更新の期待が否定されることがあります。

他方で、雇用契約書において、自動更新条項が規定されており、これに基づき更新が繰り返されている場合には、更新への合理的な期待が認められることがあります。

更新の上限規定

更新の上限規定を設けることで、上限を超えて契約更新されることの期待には合理的な理由がないとされる場合があります。

契約期間や更新回数に上限を設けた上で、労働者がこれを認識している場合には、更新に対する合理的な期待が否定される可能性があります。

使用者としては、契約書や労働条件通知書に更新の上限を明記し、これを十分に説明した上で、労働者のサインをもらうようにすることが大切です。

雇止めと無期転換ルール

2012年の労働契約法の改正により、無期転換ルールが導入されました(労働契約法18条)。

無期転換ルールと有期契約の雇止めについて解説します。

無期転換権とは

無期転換ルールとは、同じ使用者との間で有期雇用契約が通算して5年を超えて更新された場合、労働者は使用者に対して無期雇用契約に転換することを申し込むことで、無期雇用契約となる仕組みをいいます。

使用者側には、これを拒否する権利はなく、労働者側が無期転換権を行使すれば、使用者はこれを承諾したものとみなされます。

無期転換権と雇止め

雇止めの通知をされた時点で、無期転換権の条件を満たしていれば、労働者は無期転換権を行使す

ることで、雇用契約は無期契約となります。

そのため、雇止めは無期契約の解雇として扱われます。よって、解雇の条件である客観的合理的な理由と社会通念条の相当性を満たさなければ、解雇は無効となります。

また、無期転換権の条件を満たしているものの、これを行使しない場合であっても、更新される合理的な期待が認められる可能性は高いでしょう。

雇止めをする時の注意点

雇止めをする際には、企業はいくつかのポイントに留意する必要があります。以下に、企業が特に注意すべきポイントを具体的に説明します。

雇用期間満了の1か月以上前に雇止めを通知する

有期契約を3回以上更新し、または、通算して1年を超えて継続して勤務している場合には、少なくとも期間満了日の30日前までに、雇止めの予告をしなければなりません。

本来、雇止めは、期間の満了の事実だけで効力が発生するため、特段の通告は必要ありません。

しかし、雇用契約が一定期間続いている場合には、労働者は契約継続の期待を抱くため、あらかじめ雇い止めの通知をしておくことが求められます。

この場合、事後的に通知を証明できるよう、書面により雇止めの通知をするようにします。

更新手続きを形式的なものにしない

更新手続きを形式的にすることなく、面談を実施の上で、新たな雇用契約書の作成を更新の都度行います。

更新手続きを形式的に行ってしまうと、雇用契約が無期契約と同視されてしまい、雇い止めに制限が生じる可能性があります。

安易な言動は慎む

使用者は従業員に対する言動に慎重であるべきです。

雇用継続についての発言は、契約更新の期待を生むきっかけとなり、雇止めを困難にさせます。社員の担う業務や役割の重要さを踏まえながら、社員のモチベーションを向上させるための発言も時には必要です。しかし、不用意な発言は、雇用管理を困難にさせます。

使用者は慎重な言動を心掛け、適切な更新手続きを踏むことが重要です。

業務内容を限定できるのであれば限定する 

業務内容を限定することで、トラブルの発生を抑えられます。

業務内容や責任が正社員のそれと差異がない場合には、雇止めが困難になる可能性があります。

そこで、正社員と契約社員の業務内容と責任に差異を設けて、それぞれの業務区分を明確にしておくことが重要です。

注意指導を行いその記録を残しておく

従業員に対して注意指導を行い、その記録をしっかりと残しておくことが重要です。

注意指導の記録は、雇止めを正当化するための証拠として役立ちます。これにより、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。

例えば、遅刻や欠勤の多い社員に対しては、口頭による注意に留めず、文書による厳重注意をした上で、改善されなければ懲戒処分を行います。

口頭による指導だけでは、将来の紛争時に過去の指導歴を証明することができないため、文書により記録化しておくことが重要です。

更新回数や通算期間の上限を示す

契約の更新や通算期間の上限を明示することは、雇止めのトラブルを防ぐために非常に重要です。

更新の回数や契約の通算期間を契約書に明示しておくことで、労働者は契約更新に対する過度な期待を持たないようになります。

単に契約書に上限を記載するだけではなく、その内容を労働者に対して面談をした上で丁寧に説明することも重要です。

雇止めで困ったら弁護士に相談を

無期の雇用契約であるからといって、安易に雇止めをすると、思わぬ労働紛争に発展するかもしれません。

紛争を予防して雇止めをするためには、事前に雇用契約書を作成し、しっかりと面談をするなどして更新手続を適切に行います。

雇止めで悩んだ場合には、早計に雇止めをするのではなく、あらかじめ専門家の弁護士に相談をして計画的に進めていくことが肝要です。

当事務所では、初回相談30分を無料で実施しています。

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