問題社員の類型と各段階での具体的な対処方法

問題社員への類型別の対応方法

一言で「問題社員」と言っても、社員が起こしている問題行為は様々です。起こしている問題行為によって企業として対応すべき解決策も異なります。
この記事では、問題行為の類型別の対応と、問題社員を抱えている企業が行うべき具体的な対処方法について解説します。

自社で問題社員を抱えてお困りの経営者・人事担当者様も、現状の問題行為がどこに当てはまるかを理解したうえで、企業として必要な対応方法を知るために役立てていただけますと幸いです。

問題行為類型①:遅刻欠勤

遅刻や欠勤を繰り返す社員に対して、ヒアリングを実施した上で、口頭で注意・指導を行い、改善されない場合には、厳重に注意指導をしなければなりません。
書面による厳重注意をしてもなお、改善されない場合には、懲戒処分を検討します。

その上で、遅刻等に正当な理由がないと判断できる場合には、懲戒処分を行いますが、余程の事情が無ければ、最初の懲戒処分は最も軽い譴責とし、改善がなければ徐々に重たい処分とします。遅刻や欠勤が理由となり、取引先との取引が停止するなど、企業側に大きな損害が発生したような場合には、最初から重たい処分を課すこともあります。

改善なく遅刻等を行い、その都度、注意指導や懲戒処分を繰り返し行ってもなお、改善が見られない場合には、退職勧奨の上、退職しない場合には解雇処分をすることもあり得るでしょう。
ポイントは、初めから解雇を目的とした証拠つくりに徹するのではなく、あくまでも、従業員と真摯に向き合い、その就労態度の改善に努める姿勢が重要です。

問題行為類型②:協調性不足

協調性の有無に関する判断については、同僚社員や上司からその都度報告書や日報を提出してもらい、日頃から問題社員の協調性を欠く言動を記録に取るよう心掛け、事後的に問題行動を証明できるようにしておきます。また、協調性を欠く言動があれば、問題社員との面談を適宜行い、改善を図るための努力を尽くします。それでもなお、協調性を欠く言動が無くならない場合には、配置転換を実施し、改善の機会を与えます。

配置転換を行う際には、協調性不足が理由であることを明確に伝えることが重要です。これを伏して配置転換をすると、問題社員は理由も分からず配置先で就労を再開させるので改善の動機付けとならないからです。このように手を尽くしても改善の様子を伺えない場合には、退職勧奨を行います。

配置転換先がない企業の場合。協調性不足の言動に対して、注意指導から始め、改善されない場合には戒告等の軽い懲戒処分を行います。その間、問題社員には業務日報を作成してもらうなどして、日々の業務の振り返りをしてもらいます。さらに、定期的にヒアリングや面談を行うなどして問題社員とのコミュニケーションも継続して行います。それでもなお、協調性不足が改善されなければ、退職勧奨を行います。

問題行為類型③:能力不足

新卒採用の場合、特定の業務に関するスキルを求められていないことが多いため、比較的長い時間をかけて教育指導することが予定されています。

そのため、新卒採用により入社した新入社員の能力不足を理由とした解雇が有効となる事例はほとんどありません。
まずは、定期的な面談、社内外の研修の受講、配置転換、業務日報による業務報告などを通じて、新卒社員の能力不足を解消させるための措置を尽くす必要があります。

これらの手を尽くしてもなお、パフォーマンスが低く改善されない場合であっても、なお能力不足を理由とした解雇のハードルは高いです。そのため、解雇処分に行う前に、退職パッケージをセットに退職勧奨を行うことを推奨します。

中途採用のうち、営業部長や人事部長などの職務上の地位を特定して採用される場合(地位特定者)、職務上の地位に必要とされる能力を有していることが雇用契約の内容とされているため、与えられた業務以外の業務に就くことが予定されていません。

そのため、配置転換や降格などを行う必要は乏しいとされています。そのため、求められた能力が発揮されていない場合には、契約内容の履行がなされていない(つまり債務不履行)として、退職勧奨や普通解雇を検討します。

他方で、特定地位者ではないものの、特定の専門的な職種の経験を買われた採用された場合、特定の職務上の地位を付与されているわけでもなく、地位特定者ほどの待遇を受けていないことがほとんどでしょうから、地位特定者と比較して解雇のハードルは高くなります。

問題社員への具体的な対処方法

問題社員に対する対応としては、計画的に段階を踏んだ対応を行うことです。上記の類型別の対応方法でもポイントでお伝えをしたように、解雇という結論ありきの対応をするのではなく、可能な限り従業員の問題点を改善させようとする会社側の誠実な態度が重要です。

解雇ありきの証拠作りをすると、裁判官の目には。「問題社員とのコミュニケーションはなおざりとなり、本来与えられるべき改善の機会が与えられていない」と映ってしまい、解雇は無効であるとの判断に傾いてしまいます。問題社員対応として、企業での具体的な対処方法は下記のような方法が検討できます。

就業規則の整備

懲戒解雇を含めた懲戒処分が有効となるためには、就業規則に懲戒事由が予め規定されており、問題行動がこの懲戒事由に該当することが必要です。万一、会社内において、就業規則を整備していない場合には、速やかに作成するようにしてください。
就業規則の作成に際しては、従業員の過半数代表からの意見聴取をした(労働基準法第90条)上で、就業規則を労働基準監督署に届け出て、社内で周知させます(労働基準法第106条)。

ヒアリング

会社が従業員の問題行為を察知した場合、曖昧な情報の中、いきなり問題社員からヒアリングをすると、かえって問題社員の反発を招き適切な聴き取りができません。

そこで、可能であれば、情報源からの聞き取り、メール、日報等の客観的資料の収集、他の従業員から聞き取りを行うことにより、問題行動を的確に把握するように努めます。その上で、問題社員から本人、問題行動についてヒアリングを行います。問題社員のヒアリングの際は、「傾聴」と「共感」の姿勢を強く意識しながら、問題社員に存分に喋ってもらうように心掛けます。

業務日報

能力不足や協調性不足などの問題行為を行う従業員に対して業務日報を作成させることが有効的です。
なぜなら、能力不足や協調性不足の社員は、自己の問題行為を認識できません。これを業務日報の作成を通じて「見える化」させるとともに、業務日報を通じて上司との双方向のコミュニケーションが可能となることで、問題行為の改善の機会を与えることができます。また、業務日報の作成を通じて、問題社員は、自己の問題点を目の当たりにし、自身の進退について深く考える機会を持つことになります。

退職勧奨

問題行為の改善を努めてきたものの、遂には改善に至らない場合には、退職勧奨を行います。いきなり解雇処分をすることは極力回避します。
退職勧奨においては、以下の点を留意しながら退職強要にならないように注意が必要です。

退職勧奨を行う際の進め方としては、過去の問題行動を取り上げた上で、再三にわたって指導や注意を行ってきたなどの雇用継続のための努力を尽くしてきたが、改善されなかったという、これまでの経緯を述べた上で退職勧奨をします。あくまでも従業員の意思による退職を促すものであることを留意してください。

退職勧奨に対して、従業員が強く抵抗するなど受け入れないことも十分に予想されるため、従業員が退職勧奨を受け入れやすくするよう「退職パッケージ」を用意しておきます。

具体的には、特別退職金の支給・有給休暇買取・再就職支援といったものです。特別退職金は、勤続期間や退職時の職位などに応じて決定されます。このような退職パッケージを提案することで、退職勧奨に応じる動機付けをします。

懲戒処分

問題社員の問題行動に改善が見られない場合、懲戒処分を検討します。まずは、就業規則の懲戒事由に該当するかを慎重に判断します。何らかの懲戒事由に該当することを前提として、軽微な問題行動の場合には、従業員に経済的な不利益が生じない戒告・訓戒・譴責などの懲戒処分を行います。それでもなお、改善がなされない場合には、減給などのより重い懲戒処分を行います。

問題行動が軽微ではない場合、注意ではなく減給や降格といった重い懲戒処分を初めから行います。問題行動が、犯罪行為かこれに準じるものである場合には最初から解雇処分に付すこともあります。

問題社員対応で困ったら

当事務所では、問題社員への具体的な対処方法について貴社の状況に合わせた最適な対処方法についてご提案・サポートをさせていただきます。
現在問題社員への対応でお困りの経営者・人事担当者様は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。